
はるか昔から、人々の身近な存在だった人形。日本では 「源氏物語」にも人形で遊ぶ“ひいな遊び”の様子が書かれており、子どもの玩具としても長く愛されていたことが分かる。
一方で人形は“魂が宿る”とも言われており、リアルな造形も相まってホラー漫画や映画では恐怖の対象として描かれることも多い。
直近では、6月13日に長澤まさみさん主演のミステリー映画『ドールハウス』が公開された。骨董市で見つけた人形に翻弄される家族を、スピード感満点に描いた作品だ。
今回は、『ドールハウス』のような「ちょっと怖い人形」を描いた少女漫画を見ていきたい。
※本記事は各作品の内容を含みます。
■魂を持ったドールの切なく悲しい物語『人形の墓』
美内すずえさんは『ガラスの仮面』で有名だが、ホラー・ミステリーの名作も多い。なかでも『人形の墓』は1973年に発表されたもので、恐ろしくも哀しい世界観に惹きこまれる短編だ。
物語は、孤児のアナベルがある屋敷に引き取られるところから始まる。新たな生活に期待を寄せる彼女だが、待ち受けていたのはアナベルを娘を認めないローズ・リー夫人と、その娘セーラの形をした車椅子に乗った大きな人形。アナベルは、本物のセーラがすでに亡くなっており、夫人がセーラの遺言に従って人形を人間のように扱っていることを知る。
アナベルは夫人の心を癒すために明るく接し、それに応じるように夫人もアナベルに心を開いていく。そんな様子を、セーラ人形が妬ましく見つめていた。
人形はセーラの魂を持っており、母を奪われたことであの手この手でアナベルの命を狙うようになり、ついにはベランダから突き落してしまう。アナベルは瀕死の状態でぶら下がっているところを夫人に助けられるが、今度は夫人がショックで心臓発作を起こしてしまう。
アナベルは懸命に介護しながら、涙ながらにセーラ人形に叫ぶ。「人形のあなたに何ができて?」「どんなことがあってもおばさんのそばをはなれるものですか!」と……。
夫人は意識を取り戻し、アナベルを改めて娘として受け入れる。だが、その陰ではセーラ人形が涙を流していた。そして3日後、不思議なことにセーラ人形はテラスから落ちてしまう。アナベルたちは「人形の墓」を作って丁寧に埋葬するのだった。
セーラ人形の表情の怖さや行動の残忍さに恐ろしくなると同時に、唯一の母を失った彼女の悲しみが胸を打つ同作。最後は自ら飛び降りたのであろうか、あまりにも切ない人形の運命に切なくなってしまう。