■有閑俱楽部の面々を脅かす雛人形の怨念『雛人形は眠れないの巻』
続いては、一条ゆかりさんの伝説的漫画『有閑倶楽部』で描かれた「雛人形は眠れないの巻」というエピソードだ。同作は、超セレブで個性豊かな6人の高校生たちからなる「有閑俱楽部」が、さまざまな事件を解決していくアクションコメディ。数々のエピソードの中でもホラーは人気ジャンルで、「雛人形は眠れないの巻」は霊感がある剣菱財閥の令嬢・剣菱悠里がメインキャストになっている。
あるとき、剣菱の父親が東北にスキー場を建設するため、下見のために現地の地主・桜川家を訪ねることになった有閑倶楽部。
左官職人の家系である桜川家は、本妻と妾が同じ屋敷に暮らす地元の名家。相続争いが絶えず不穏な空気が漂っており、家には代々伝わる家宝として「お雛様」だけが不思議と新しいものと変えられた、巨大な雛人形が飾られていた。
そんな中、裏庭の氷室(氷の貯蔵庫)に落ちた悠里が、娘を抱えたままミイラ化している母子の遺体を発見し、村は大騒ぎとなる。
母子の遺体のそばには立派なお雛様が置かれていたが、専門家の調べでこれがもともとあるはずだった桜川家のものだと分かり、そこからミイラがかつてこの地域で絹問屋を営んでいた藤乃井家の母子だと判明する。
これは客が集まると考えた桜川家は「悲劇の母子ミイラ」として入場料1000円で公開を始めるが、そこから事態が急変。次々と桜川家の人間が殺害され、遺体のそばにはお雛様の紐や髪の毛があるという、まるで呪いのような殺人事件が起こる。
遺産目当ての殺人かお雛様の呪いか……皆が怯える中、有閑俱楽部が藤乃井の過去を洗うと、桜川家が藤乃井の財産を狙って彼らを殺害していたことが判明する。つまり一連の死は藤乃井家の怨念だったのだ。
霊感のある悠里を通じて、藤乃井家の恨みがお雛様に乗り移ったことを知った有閑俱楽部は、魂を成仏させようとするも、桜川家当主はお雛様を壊して逆切れ。あげくにはミイラも壊そうとするが、動き出した母子に殺されてしまうのだった。
雛人形に宿った怨念を描いた同エピソード。一条さんの描く絵はタッチが繊細ゆえ、髪の抜けたお雛様やボロボロのミイラといった演出がとにかく怖い。そこに人間の業の恐ろしさが加わり、読者の心を深く揺さぶる名作のひとつだ。