■最恐のトラウマ!日本人形の呪いが連鎖する『わたしの人形は良い人形』

 最後は、壮大なスケールの名作漫画を生み出してきた山岸凉子さんの作品を振り返りたい。山岸さんもまた、短編作品で多くのホラー・ミステリーを手掛けており、1986年に発表された『わたしの人形は良い人形』は、3世代に渡って日本人形の呪いに翻弄される家族の恐怖を描いた「人形ホラー」を代表する名作だ。

 舞台は昭和21年。竹内千恵子、野本初子と妹・姿子が毬つきで遊んでいると、道路に飛び出した毬を追いかけて初子が交通事故にあい、後日息を引き取ってしまう。事故のことを初子の両親に伝え忘れたと悔やむ千恵子の母親は、あの世で遊べるようにと竹内家の日本人形を捧げる。

 しかし、美しい人形に目がくらんだ初子の祖母がそれを盗み、人形には初子の怨念が宿ってしまった。呪いの化身と化した人形は最初に千恵子の命を奪い、千恵子の念もまた人形に宿ってしまう。

 10年後、祖母が死に、中学生の姿子が隠されていた人形を発見したことで再び呪いが始まり、今度は両親が家ごと焼き殺されてしまう。野本家の生き残りは、ついに姿子だけになってしまった。

 時は流れ昭和60年。姿子は家庭を持ち、娘の陽子は高校生になっていた。姿子は全焼した実家の土地に新居を建て、その荷解き中に陽子が人形を見つけてしまう。次なるターゲットにされた陽子は、次々起こる怪異に怯えながらも霊能力者であり竹内家の孫でもある陽とともに人形を成仏させるべく奮闘するのだった。 

 捨てても戻ってくる人形、荒らされる室内、謎の足音に子どもの足跡など、ホラーの王道描写が散りばめられた同作。迫りくる恐怖と人形の恐ろしい形相にはゾクゾクが止まらない。

 全員が何らかの形で呪いに関与する中、人形を保有していたにも関わらず、最後まで無傷だった姿子は印象的だ。運が強いのもあるが、人形を欲しがりつつも執着がないのですぐに忘れるうえ、現実主義者なので怪異が寄り付かないという設定は斬新で面白い。ちなみに、映画『ドールハウス』の監督・矢口史靖さんは、「影響を受けた作品」として本作を挙げている。

 人形に宿る魂や怨念をテーマにしたホラーはこの他にも多々あるが、共通しているのは人形それぞれに悲しい過去や成就させたい願いがあるというところ。持ち主の苦しみや悲しみを背負う彼女たちを見ていると、どこか切ない気持ちになってしまう。

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