東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』
© 東川篤哉/小学館

■こんなに優しい世界ってありますか

ーー今、お仕事の中で大切にされてることをお聞かせください。

中村 もう20年もやってきたら、恒例の仕事として、この作家の小説、このアーティストのCDジャケットという仕事がいくつかあるわけです。そこで作家やアーティスト、ファンの方と一緒に年齢を重ねていくのってうれしいなと思ってるんです。
一方で、「僕の絵は新しく人が入ってくるための入口にならなきゃいけないな」とも思っているんですよね。 それが、商業芸術のやるべきミッションなので。
僕は、僕の絵を見て、より深く理解してもらうことに優越感はないんです。むしろ、初めて僕の絵を見る人が、いかにライトに軽い気持ちでたくさん楽しんでくれたか、みたいなことがずっとやりたいなと思っていた。子どものときに僕を楽しませてくれたビックリマンシールって、そういうものだったので。

ーーやっぱり、ビックリマンシールは相当お好きだったのですか。

中村 そうですね。僕がビックリマンシールを集め出したのは第7弾からですが、ビックリマンシールの作者(グリーンハウス・米澤稔さん&兵藤聡司さん)は、「あのシールを持ってないなら、ファン失格だよ」なんて言わないと思うんですよ。
だから、僕も絶対にそれをやっちゃいけないなと思います。当時はネット通販とかもないですし、まんだらけとかもなかったのでカッコいいシールがあっても買えないわけです。でも、別に劣等感を持っていたわけではなくて、今売ってるシールがカッコいいから十分満足できた。その体験っていうのは、僕の中ではすごく大きくて。文化的なお店はほとんど何もないベッドタウンに住んでましたが、全国のどこの子たちも、そのようにビックリマンシールを楽しんでたわけです。こんなに優しい世界ってありますか?

ーーいや、確かに現代ではなかなかないかもしれません。

中村 ただこう話していくと、この展覧会自体を否定せざるを得なくなってきます(笑)。実は、僕はその間で結構揺れてて、開催期間は2ヶ月頂いておりますが、特にコロナ禍で、なかなか遠くからの方は来れず、しかもここに来ないと見れないような原画もある。こういうことをやるたびに、僕はすごく罪悪感に苛まれるんです。

高校生の音楽の教科書『高校生の音楽1』
© 教育芸術社

ーービックリマンシールの持つ思想に反するんじゃないかと。

中村 今のままだと明らかに反してます(笑)。だから責任を持って、きちんとここで集客をしてというか、巡回展が回れるように、資金を貯められるぐらいまでお客さんに来てもらって行ってないところにもきちんと行くことができたらいいなとは思ってます。

ーーけれど、おこがましいようですが、この展覧会を見ることによって、コロナ禍の世界にも関わらず、気持ちが自由になった人も大勢いると思います。

中村 そうなってくれたらいいですけどね。とにかく絵がいっぱいあるので、ほどほどに興味ある人でも安心して来てください。時には口に合わないかもだけど、とりあえずお腹はいっぱいにはなるよと伝えたいですね(笑)。

ーー最後に先生が絵を描かれていて、楽しいのはどんな瞬間ですか。

中村 やっぱり印刷されて、世の中に出て、それを人々に受け取ってもらえたときですね。いまやみんな、CDというメディアで音楽を聞いてないと思います。けれども、僕が描いたジャケットのCDが部屋に1枚でも飾ってあったり、浅田飴の缶を、食べ終わっても持っていてくれたり。あとは、音楽の教科書の表紙もそうですね。教科書なんて、卒業したら全部捨てるじゃないですか。でも、20~30代の子が「これだけは捨てられなかったんです」と言って、高校生のときに使っていた教科書を、僕に写真で送ってくれたり。
そういうのを知ったときに、“あ、僕にとってのビックリマンシールと一緒のことできたかも”と思って、ビックリマンシールを楽しく集めていた当時の自分に、間違ってなかったよって言える気分になれるんですよね。だから、やっぱりこの展覧会は半分正解で半分間違ってるんじゃないかなと、これからもずっと思ってゆきます(笑)。

《プロフィール》
中村佑介(なかむらゆうすけ) 

中村佑介
中村佑介氏

 1978年生まれ、兵庫県出身のイラストレーター。大阪芸術大学デザイン学科卒業。ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしなどのCDジャケット、『夜は短し歩けよ乙女』『謎解きはディナーのあとで』、音楽の教科書などの書籍カバー、浅田飴、ロッテのチョコパイなどのパッケージほか、数多く手掛ける。ほかにもアニメのキャラクターデザイン、ラジオ制作、エッセイ執筆など表現は多岐にわたる。画集『Blue』『NOW』(共に飛鳥新社)は13万部を記録。教則本『みんなのイラスト教室』(飛鳥新社)、ぬりえブック『COLOR ME』『COLOR ME,too』(共に復刊ドットコム)、最新刊CDジャケット全集『PLAY』(飛鳥新社)も発売中。
http://www.yusukenakamura.net/

「WEB声優MEN」の『四畳半タイムマシンブルース』関連記事はこちら

  1. 1
  2. 2
  3. 3
【画像】実家にある…!? 教科書にも使用されている中村氏のイラスト