講談社「月刊アフタヌーン」で2011年に連載され、「星雲賞」の候補にも選出された、今井哲也によるSFジュブナイル漫画『ぼくらのよあけ』。小学4年生の少年・悠真(CV.杉咲花)が宇宙から来た“未知の存在”と出会い、AIのナナコ(CV.悠木碧)や仲間たちと極秘ミッションに奔走する、ひと夏の物語だ。本作を原作とするアニメーション映画が、2022年10月21日に劇場公開される。
この“未知の存在”こと、遠い星からやってきた無人探査機の人工知能「二月の黎明号」の声を演じたのは、『鋼の錬金術師』エドワード・エルリック役や『進撃の巨人』ハンジ・ゾエ役で知られる名優・朴璐美。彼女をして「難役!」と言わしめるこの役をオファーしたのは、彼女に深い信頼を寄せる監督・黒川智之。二人は本作とどのように出会い、この役を組み立てていったのか。15年来の交流がある二人のざっくばらんなトークをお届けする。(全3回)
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舞台上の朴璐美が持つ豊かな表現力やパワフルさ
――本作はSFジュブナイル漫画が原作ですが、お二人が本作に出会ったときの印象はいかがでしたか。
黒川智之監督(以下、黒川監督) 僕は、このお仕事のお話をいただいたときに原作を知って読んだのですが、感動して「ぜひやらせていただきたい!」と即答しました。
朴 璐美(以下、朴) 私は黒川監督から「難しい役なので、よろしくお願いします」とLINEをいただいたのがこの作品との最初の出会いです。「なるほど、でもそこまでではないですよね?」と思ったんですが、実際に台本をいただいてみたら、「いや、えげつないな!」と。
黒川監督 (笑)
朴 確か「これは難しすぎます!」ってLINEを送りましたよね(笑)。最初に台本を読んだときは「これは、どう演じたら良いんだ…」というくらい途方に暮れましたが、作品自体はすごくほっこりする内容で面白いなと思いました。
――オファーはLINEでされたんですね。
黒川監督 いえ、朴さんとは連絡取ったのは、出演が決まってからですね。ソニルードさん(音響制作会社)の出演決定を受けてからLINEをしました。僕の監督デビュー作である『MURDER PRINCESS』(2007年)で主演をやっていただいたというご縁があり、その後も朴さんの舞台をよく観劇させていただいていたので、アニメや吹替の仕事だけでなく、舞台での朴さんの姿もずっと観ていたんです。今回の「二月の黎明号」は、それこそ男性が演じるか女性が演じるかも決まっていないし、表情もないキャラクター。口パクに合わせて演じるのがアニメーションなのに、肝心の口もない。声だけですべてを表現しなくてはいけないこのキャラクターを誰にお願いするかと考えたとき、僕の中では「朴璐美さんしかいない」と。
朴 いやいやいや。
黒川監督 1万2千年という時を重ねた、「二月の黎明号」の想い。それは僕の中でも“これ”という答えがあったわけではなく、ある程度役者さんに委ねなければいけないところが大きかった。そこを安心してお願いできる方というともう、朴さんしかいなかったんです。舞台上の朴さんが持つ豊かな表現力やパワフルさを、それこそ帝国劇場でも観させていただいてきて、正直にそう思ったんですよね。
朴 そんなことを言っていただけて役者冥利に尽きますが、この役は本当に難しかったですね! 一応私も女性なので、ユニセックスに演じようとすると、少年になってしまう。悠真たちと同じ年齢感になってしまうので、もっと異質な感じを出したほうがいいんじゃないかと考え、何度か演らせていただきました。
黒川監督 忙しいのに時間を割いていただいて、試行錯誤しながら取り組んでくださいました。でも悩んでいる朴さんを見るのは楽しかったですね(笑)。
朴 なんでよ!(笑)
黒川監督 これは僕の師匠の影響でもあると思うんですが、監督として、役者さんが苦労している姿を見るのが好きなんですよ。
朴 信じらんない! もう1回言っていいですか? 信じらんない!!
――(笑)
黒川監督 (笑)。確かに、もうちょっとディスカッションがあっても良かったのかなと思いつつも、結果としては朴さんに委ねて良かったと個人的には思ってます。
朴 ……もう1回、録り直してもいいんだよ?
黒川監督 朴さん、ずーっとそれ言ってますね。「いつでも(収録)行きますから!」って。
朴 結局何パターンか演って、「あとはもうお任せします」とさせていただいたんですよね。でも実は私、自分の作品は10年寝かせないと観られないタイプなんです。だからちょっとだけは観たんですが、ものすごくボリュームを小さくして観たので、ごめんなさい。ちゃんと観てないんです。
黒川監督 そうなんですか? じゃあ10年後に感想をお待ちしてます。
朴 10年後に一緒に観ましょうよ、監督(笑)。