■それぞれの選択が運命を動かす
このように8人それぞれまったく異なるシナリオが描かれているのですが、この8人それぞれが「知らないうちに」ほかのシナリオに関与してしまうのが本作最大のポイントです。
たとえば、あるサウンドノベルゲームで主人公が寝坊してしまったとしましょう。そして主人公がとる選択肢として「タクシーに乗る」「あきらめて徒歩で行く」の2つが出てきたとします。本来であればこのどちらかを選べば物語を進めることができたり、もしくはそれぞれで違うルートが発生してエンディングに影響が出たり、なんてこともあるでしょう。しかし、『街』では違います。
今の例の選択肢が『街』でもし出てきたとしたら、「タクシーに乗る」を選んだら渋滞に巻き込まれてしまってバッドエンドになり、「あきらめて徒歩で行く」を選んだらそれはそれで普通に遅刻してバッドエンドになります。
「は?詰んでるじゃん」と思ったかもしれません。ですが、このゲームが面白いのはここからです。
この主人公を遅刻させないためにはタクシーに乗ったほうがよさそうですよね。しかし、それでは渋滞に巻き込まれてしまいます。それでは「この渋滞を解消する」もしくは「そもそも渋滞にならないようにする」ことができればうまくいきそうですね。もしかしたら、「ほかの主人公」が渋滞の原因を作っているのかもしれませんね……。
というように、渋谷という同じ街、そして同じ時間に8人の人物がそれぞれに生活している中で「偶然にも運命が重なる瞬間」が存在します。Aという主人公がなにげなく選んだ選択肢がBという主人公にとっては死活問題になるかもしれないのです。けして同じシナリオではありませんし、お互いのことを知らない(一部例外あり)他人同士ではありますが、ある選択肢によって運命を大きく変えられてしまっているかもしれないのです。
これをうまく整理しながら全員をそれぞれのゴールまで導いてあげることで結末を知ることができるようになっています。このシステムがとにかく斬新で、うまくつながったときの快感はたまりませんでした。
先ほど実写ゲームの例として挙げた『428』は2008年に発売されたもので、本作『街』の10年後の渋谷が舞台になっているとされています。内容に直接的な関係性はないため「続編」とされてはいませんが、システムなどの共通点も多いため、並びで語られることがよくあります。
確かに似ていますし、どちらもとんでもなく面白い大名作ですが、私の中で決定的な違いがあります。
それは「結末の魅せ方」です。
『428』は5人の主人公が、渋谷の街を舞台に、ある事件をきっかけに運命が交差していく様子を描いたものでした。そして5人は、張り巡らされた伏線をそれはそれはきれいに回収していきながら完璧なラストを迎えるのですが、『街』の魅せ方は違います。
『街』は確かに8人がそれぞれの運命に「知らないうちに」関与していますし、同じ時間・場所で起きている物語なのですが、結末はそれぞれ独立したものになっています。全然違う物語、それぞれの主人公はお互いを全然意識しないまま終わっているのですが、実はどこかで彼らの運命は交差していたんだとプレイヤーだけが知っている、という状態になるのです。
この終わらせ方もオツで、すべてのキャラクターのシナリオをクリアしたのちに選べる隠しシナリオによってこの感動にさらに拍車がかかります。気になった方はぜひ遊んでみてください。こんなによくできたゲームがあったのかと驚嘆することでしょう。