■カルト的人気を誇る超革新的サウンドノベル
1988年にセガサターン 用ソフトとしてリリースされた『サウンドノベル 街-machi-』(PS版は『街~運命の交差点~』)は、チュンソフトの名作『弟切草』『かまいたちの夜』に続く同社のサウンドノベルシリーズ第3弾として発売されました。本作は20年以上も前に発売されたものでありながら、今もなお多くの熱狂的なファンが多い作品です。そのカルト的な人気の秘密はその特徴的なシステムにあります。
本作の物語は、渋谷にいた8人の人物の10月11日から15日までの5日間を追っていくというものなのですが、この8人はそれぞれ独立したシナリオになっています。
全員が同じ1つのシナリオの登場人物で違う視点からそのシナリオを見ていく、というものではなく、さらに物語の内容・文章のタッチもシリアスなものからコミカルなものまで多岐にわたっていて、それぞれ違う読み物として楽しめるという点はとても斬新でした。その8人を紹介します。
●雨宮桂馬 シナリオ『オタク刑事走る!』
渋谷中央署生活安全課に所属している刑事で自称「ゲーマー」の青年。思い込みの激しい性格で、ひょんなことから「爆破予告の暗号文」を発見し、爆発を防ぐために渋谷を駆け回ります。多くのプレイヤーが最初に選んだであろう主人公です。
●牛尾政美 シナリオ『The wrong man 牛』
名前だけ見ると女性のようですが元ヤクザの男性です。極道から足を洗い、宝石店に勤める女性にプロポーズしようと思い店を訪れたところ、宝石強盗の男と鉢合わせてしまいます。
●馬部甚太郎 シナリオ『The wrong man 馬』
冴えない役者で強面ですがかなりの小心者。今まで端役ばかりだった彼でしたが、ついに大役「極道の組長役」の座をつかみます。しかし、演技力のない彼は失敗の連続。落ち込んでいたところ、ひょんなことから宝石泥棒に仲間だと間違えられてしまいます。ちなみにシナリオタイトルからも分かる通り、牛尾と対となるシナリオです。この2つのシナリオの絡み合いと結末はうなってしまうほどの完成度を誇ります。圧巻です。
●篠田正志 シナリオ『七曜会』
いたって平凡な大学4年生の青年。父親のツテで就職が決まっていたが、自身がかつて学生運動に参加していたことをネタに謎の組織『七曜会』に脅迫されてしまいます。このシナリオは私が特に好きなシナリオで、サスペンスな要素とミステリアスでありながらどこかコミカルな独特な雰囲気を醸しているセリフ・文章が素晴らしいです。ちなみに僕はやっぱり「水曜日」が好きでした。
●市川文靖 シナリオ『シュレディンガーの手』
「何曜日のツナたちへ/毎度おすそわけします」など多数のヒット作を手掛けたドラマのプロットライター。最近、彼は眠れば悪夢に苦しみ、目覚めると身に覚えのない「傑作」が出来上がっているという謎の現象に頭を悩ませている。いったい、彼の身に何が起きているのか……。ちなみに、市川を演じるのはダンカンさんです。とても有名な芸人さんではありますがシナリオの内容はかなりシリアスな上、一部グロテスクな表現もあるのでご注意ください。静止画のみですが、ダンカンさんの演技は圧巻です。
●飛沢陽平 シナリオ『で・き・ちゃっ・た』
モテモテのプレイボーイな高校3年生。複数の女の子と遊ぶのが当たり前な彼でしたがある日、かつてナンパした女の子から妊娠したとの事実を告げられてしまいます。「この年で父親に……」と思い悩む彼でしたが、これは彼の過酷な運命の幕開けに過ぎませんでした……。数々の修羅場をなんとか潜り抜けていこうとするドキドキ感をお楽しみください。
●高峰隆士 シナリオ『迷える外人部隊』
フランス外人部隊の一員だったが、厳しい訓練の中で自身の残虐な一面を自覚してしまい、脱走同然で日本に帰ってきた。自分とは何なのか、故郷・渋谷をあてもなくさまよい続ける彼に待ち受ける結末とは。1シナリオの文章量は他のキャラに比べて少ないですが、ゲーム全体で言えば非常に重要なキャラクターであると思います。そもそも重要ではないキャラは存在しませんが。
●細井美子 シナリオ『やせるおもい』
彼氏に「5日で17キロ痩せろ」という無理難題を突き付けられた、食べるのが大好きな女性。彼に捨てられたくない一心でダイエットに励む、というとてもほのぼのした内容のシナリオで文章もかなりコミカルな作りになっています。