■日々の虚無感と小さな喜びを味わう通好みゲーム『Mosaic』
続いて紹介するのはどこか物憂げなアドベンチャーゲーム『Mosaic』です。
プレイヤーはとある大企業に勤める孤独なサラリーマン。今日も今日とてたくさんの人々に紛れて出勤します。「特別な1人」ではなく「その他大勢のうちの1人」である彼の姿を見て、ついどこか自分を重ねてしまう。大都会に暮らすも友人はおらず、仕事に行って帰宅するだけの毎日を過ごし、滞る督促状にため息をつく……。そんな彼の思いを表現しているかのような暗い青で包み込まれた世界がとてもオシャレで、プレイヤーはより彼に感情を重ねやすくなっています。
これだけ聞くと「なんでゲームで暗い気持ちにならなきゃいけないの?」と思うかもしれませんが、本作は「暗くなることが目的」ではありません。むしろその逆。
確かに世界観がかなり暗めなので、精神的に参っている方や彼に感情移入しすぎてしまう人は「くらってしまう」かもしれませんが、そんな無機質な世界にも「喜び」はあるんだよ、と何度も教えてくれる、忘れかけていた小さな幸せをいくつも感じさせてくれるゲームです。
たとえば、暗い世界に差し込むオレンジの暖かな夕日の表現や公園での出会いなど、些細なことが彼の「色」になっていきます。彼にいろんな「喜び」と出会わせてあげましょう。少しずつこのゲームに向き合い始めたあとに待ち構えるラストの展開には胸を打たれました。
ボリュームにして3時間ほどと短いですが、これだけのゲーム体験を凝縮しているので「なんかあっさりしてたな」とはならないでしょう。
主人公である彼と同じ境遇でいる人だけでなく、全社会人にぜひプレイしていただきたいゲームです。「社会の歯車になんかなりたくない!」という思いと「社会の歯車になってしまっている自分」の狭間で苦しんでいる方は、もしかしたら何かのヒントになるかもしれません。責任は持てませんが。
ただ、とても斬新なアイディアと世界観のゲームであることは間違いありませんよ。