■チェコのマンガ事情

ホリー チェコでもこの10年くらいでしょうか、若い人にマンガが人気でして、さきほども申し上げたように、ヤン・ジシュカを主人公にした地元の作家の作品なんかも出てきています。もちろん、日本のマンガも人気がありまして、プラハの大型書店の棚がマンガコーナーになっていたりします。それより昔、15年くらい前に、わたしは浦沢直樹さんの『モンスター』をチェコの出版社に売り込もうとしたんですよ。チェコが舞台になっている作品ですし……。

大西 そうそう、そうでしたね。

ホリー そうしたら出版社の人は「いやー、売れないねえ」って。いまは正反対ですね。「なにか面白い日本のマンガはありませんか?」って(笑)。チェコのマンガ家は、カーヤ・サウデクのような60年代から活躍している世代から、新しい40代以下の世代に移りました。ですから、大西さんの作品もチェコの読者に紹介できたらうれしいです。

注:カーヤ・サウデク(1935-2015)はチェコのコミックアーティスト。「チェココミックの王様」と呼ばれる。

大西 ぜひ、チェコの人に『乙女戦争』を読んでほしいですね。

ホリー わたしでよければ翻訳しますよ!

大西 チェコの出版事情はどうなんですか?

ホリー いまはパンデミックで大変なんですけど……。本屋さんがロックダウンで閉まっているんですね。でも、ロックダウンが終われば、読者の読みたいという気持ちが一気に高まるんじゃないかと思っているんです。

注:その後、ロックダウンが緩められ、チェコの書店は4月27日から徐々に開店している。

大西 では、ぜひ双葉社にもがんばってもらって(笑)、チェコに売り込みを。

――頑張ります(笑)。

ホリー 昨年来日した、チェコのコミック研究の第一人者、パヴェル・コジーネク氏も、『乙女戦争』を見て感心してましたよ。彼はチェコ国立文学研究所にいる学者なんですが。

――「作者はいったいどうリサーチしてこの作品を描いているんだ?」と驚いておられましたね。

■チェコでも同人誌は「ドウジンシ」

ホリー わたしはつげ義春さんの作品をチェコに紹介したいと思っているんですが、「ホリーさんみたいな人しか興味もたないよ」と言われてしまって……(笑)。チェコの人はシュルレアリスムが好きなんですけど。

――カフカのふるさとですからね(笑)。

ホリー 翻訳は終わっているんです。ですので、パンデミックが終わったらまた相談しようと思っているんです。チェコの出版界は(デジタルではなく)紙がメインなんですね。本を買うときに、装幀にこだわる人が若い人にも多いんです。紙の匂いで買うかどうか決める人がいるくらいで(笑)。チェコは小さな国で、出版社も規模は大きくないんですが、老舗の出版社もあるし、ビロード革命後にできた比較的新しい出版社も多くあります。いまはどこも苦しんでいますが……。

大西 やはり書店が閉まってしまうと厳しいでしょうね。

ホリー 友だちのお子さんなんかと話をして「どんなマンガを読んでるの?」と聞くと、知らないタイトルの日本の作品をたくさん教えてくれます。彼らは、チェコ語版がなければ英語版で読んでしまう……10代の子はみんな英語を学んでいますから。

大西 以前、チェコの学生さんから聞いたんですが、彼らは学校で日本のマンガを自分たちで翻訳して回し読みしてる、って。ぼくの作品もそうやって読んでいるんだって言ってました(笑)。まあ、海賊版なんですけど。

ホリー 実はそうなんです……好きな人が勝手に翻訳しちゃうんです。チェコの歴史マンガは、あまり性描写とかありませんから、大西さんの作品を読んで「おお、すごい」と(笑)。マンガのファンは、もう日本人と感覚が同じですよ。彼らがたとえば東京の中野ブロードウェイなんかにいくと、初めてなのに、どこに何があるか知っているんです(笑)。以前、中野の案内を頼まれたことがあったんですが、逆に案内されたみたいな感じでした(笑)。チェコの人もドウジンシ(同人誌)って言うんですよ(笑)。

大西 チェコ語でも「同人誌」なんですか(笑)。

金沢市内の自宅・仕事部屋からの大西巷一氏。背景の画像はプラハ・ストラホフ修道院の図書館。

ホリー わたしのカレル大学日本学科の後輩アンナ・クジヴァーンコヴァーは、マンガ研究者として教鞭を執っています。先日手塚治虫の『アドルフに告ぐ』をチェコ語に翻訳出版して、部数は多くないんですけど、完売だったそうです。それくらい、新刊の需要は高いんですね。

大西 なるほど、チェコでマンガの人気が高まっているのは心強いですね。

ホリー チェコの若い人に日本に関心を持ったきっかけを尋ねると、ほぼみんなアニメとマンガですね。わたしの世代は文学とかだったんですけど。アニメでも、宮崎駿とかじゃないんですよ。わたしには分からないような新しいタイトルのものをたくさん知ってるんですね、彼らは。

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