■フス戦争600周年

ホリー 歴史の授業で、「フス戦争は必ずしもよい戦争ではなかったが、さまざまな新しい武器が開発されたことは歴史上重要です」と教わったのを覚えています。

――『乙女戦争』の主題のひとつは、ヤン・ジシュカがヨーロッパで初めて大砲や銃を効果的に使用したことなんですよね。

ホリー 『乙女戦争』にも出てくる銃……ピーシュチャラ……チェコ語で笛という意味なんですが、それがのちにピストルの語源になったと言われているんですね。今回調べてみるまで知りませんでした。

ピーシュチャラと呼ばれる銃で戦うシャールカ。
ターボル、フス派博物館に展示されているピーシュチャラ(撮影:大西巷一)

大西 昨年……2019年がフス戦争開始600年だったと思うんですけど、チェコでは注目されてたんでしょうか?

ホリー いくつかはイベントや展示会があったかもしれませんが、大規模なものはなかったんじゃないでしょうか。フス戦争自体の歴史的な意義について賛否両論あると思いますし……。

大西 なるほど。実は昨年、東京のチェコ大使館の方にフス戦争600年のことを尋ねてみたんですよ。そうしたら「えっ、そうなんですか?」って(笑)。昨年はビロード革命から330年でしたから、そっちのほうが注目されていたんですね。やっぱりそうなんだなあ、と。

注:ビロード革命は、1989年にチェコスロバキアで起きた民主化革命。第二次世界大戦後、チェコスロバキアはソビエト連邦の影響下で1948年以降共産党政権が支配していた。ビロード革命後、1992年にスロバキアと分離して現在のチェコ共和国が誕生した。

ホリー そうなんですよね。ビロード革命はわりと最近の出来事ですから……。でも1419年の「窓外放出事件」についてはチェコ人なら誰でも知ってますよ。そういえば、プラハの7区に、1891年に作られた博覧会場があるんですが、そこに1898年から「リパニの戦い」のパノラマがあるんです。ご覧になりましたか?

大西 あ! 知ってます。でも、見に行ってはいないです。

ホリー 画家のルジェック・マロルド(1865-1898)による立体的なジオラマというか、360度のパノラマで、リパニの戦いが再現されているんです。チェコでは面積の一番大きな絵画ですよ。プラハの子どもは、みんなそこに一度は連れて行かれるんですよ。19世紀のチェコはオーストリア=ハンガリー帝国の一部だったんですが、パリ万博に影響を受けて、博覧会が開かれたんですね。

注:リパニの戦いは、1434年、プラハ郊外で起きたフス戦争最後の大規模な戦闘。フス派急進派指導者のプロコプ・ホリーとプロクーペクが戦死し、急進派は事実上壊滅した。『乙女戦争』12巻収録。

リパニの戦いに臨むフス派軍。第12巻より。
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