■遺体の山を築いた梶浦圭吾の歪んだ愛と沙粧妙子の選択
この物語は刑事ドラマである一方、沙粧妙子と梶浦圭吾の究極のラブストーリーでもあり、今回改めて視聴し、その切なさに引き込まれてしまった。
作中で沙粧は、梶浦をフラッシュバックする。刑事という立場の彼女が、犯罪者になった元恋人に向ける想いは複雑だ。だがそれでも幻覚を見るほどに本質的な愛が残っているのである。
梶浦もまた、沙粧への強い愛を抱えて生きている。彼女を引き込みたいという想いから、洗脳で人々を利用し連続殺人を起こし、遺体を通じて薔薇の花をプレゼントする。
唯一命を落とさなかった犯人・日置の自白を機に捜査が進み、池波が作った洗脳マニュアルの存在が明らかになった9話以降、梶浦と沙粧の歪んだ愛もクライマックスに突入していく。
本性を露わにした池波は、松岡を闇落ちさせるために妻・理江(飯島直子さん)を殺害。そして沙粧を呼び出した池波は、自分と梶浦はグルだったが梶浦に洗脳されていると感じて彼を殺したと衝撃の事実を明かす。さらに、沙粧の精神安定剤の中に梶浦の骨を入れていたことも……。なんと恐ろしい自白だろうか。
だが沙粧は、曖昧な言動から未だに梶浦に洗脳されていると確信する。池波に憎悪を向ける松岡も、復讐はせず刑事の信念を貫いた。
池波は駆けつけた上司の髙坂(蟹江敬三さん)の銃弾によって倒れ、沙粧は池波の死後、チームの責任者・卯木俊光(山本學さん)の元で、生命維持装置で辛うじて生きる梶浦と対面。彼はこの場所で池波を洗脳し、連続殺人鬼を作らせていたのだ。
梶浦は「君をぼくの思うように変えていきたかった。愛してる」と想いを伝え、沙粧も「私も愛してる、たとえどんなあなたであっても」と涙ぐむ。そして沙粧は、静かに装置の電源を落とした。
「愛情っていうのは誰もが持っている最も簡単な洗脳の手段の一つだ」と言う梶浦と池波でも、沙粧と松岡を操ることはできなかった。自身の中にある愛と痛みに正面から向き合う人間に魔の手は届かないのだ。なんとも考えさせられる話である。
人間の残酷さにゾクゾクすると同時に、切なさで胸が痛くなる『沙粧妙子-最後の事件-』。洗脳というセンシティブな題材を扱うため難しさはあるが、今放送しても間違いなくヒットするであろう名作だ。テーマ曲のロッド・スチュワート『Lady Luck』、マドンナによる挿入歌『La Isla Bonita』も名曲なのでぜひチェックしてみてほしい。