謎が恐怖を呼ぶ怪作…浅野温子主演の視聴困難ドラマ『沙粧妙子-最後の事件-』が描いた「人間の闇」【激レア名作ドラマ発掘隊】の画像
浅野温子(写真/ふたまん+編集部)

 いつの時代も揺るぎない人気を誇る刑事ドラマ。毎回違う事件を扱う一話完結型から全話を通して犯人を追うものまで構成も様々で、視聴者は作品ごとに違う視点から物語に入り込み、事件の真相に夢中になっていく。

 1995年にフジテレビ系で放送されていた浅野温子さん主演の『沙粧妙子 - 最後の事件 -』も忘れられない刑事ドラマの一つ。同作は、カルト的人気を誇ったドラマ『NIGHT HEAD』の飯田譲治さんが脚本を手掛けた作品で、オカルト要素とサイコ感が混ざった独特な世界観を放つ名作だ。

 だが、現在は長らく再放送や配信もなく、視聴困難な一作となっている。今回は、そんな『沙粧妙子 - 最後の事件 -』を改めて見返し、その名作ぶりを振り返ってみたい。

※本記事は、作品の内容を含みます。

 

■連続猟奇殺人事件を追う女刑事の身に迫る大きな闇と悪意

 同作は、浅野さん演じる警部補・沙粧妙子が連続猟奇事件の裏に潜む闇と対峙するサスペンス。ドラマ冒頭には「人間というものがいる限り、この世界から悪意が消滅することはあり得ない。そして悪意は、目に見えないものとは限らない」という言葉が流れ、“人の悪意”に切り込んだ作品であることを視聴者に印象づける。

 沙粧は腕利きのプロファイラーだが、ある事件を機にチームが解散し、現在は刑事部捜査第一課に所属する。ドライな上に事件のせいで精神安定剤が手放せないが、刑事としての能力は極めて高い人物だ。そんな沙粧のバディとして、柳葉敏郎さん演じる松岡優起夫が赴任してくる。

 出会いと時を同じくして、爪を剥がされ、死体の口に薔薇の花が入れられた第一の連続猟奇殺人事件が発生。沙粧らはプロファイリングチーム仲間の池波宗一(佐野史郎さん)と協力して犯人の谷口(香取慎吾さん)を追い詰めるも、谷口は自ら命を絶ってしまうのだった。

 薔薇の花、犯人の死などから、沙粧は事件の裏に「梶浦圭吾」の存在を感じ動揺が隠せない。

 梶浦は、かつてのチームメンバーで沙粧の恋人だった人物。彼は殺人犯と向き合ううちに闇に魅入られ快楽殺人者になり、3年前から行方不明となっていた。 

 そんな中、警察を嘲笑うかのように第二・第三の猟奇殺人事件が発生。沙粧と松岡は、増える謎と警察内部のきな臭い動きに翻弄されながらも真実を追うのだった……。

 日本でプロファイリングが注目されたのは80年代後半〜90年代初頭のことで、放送当時はそこまで世間に浸透していなかった。ゆえに、沙粧がズバズバと犯人像を固めていく様子を見て驚いたものである。また、作中には「吊り橋効果」をはじめ心理学用語も随所に散りばめられている。怖いだけでなく、学びも得られる新鮮な作品だった。

■振り返ってみると犯人役からちょい役まで出演者が豪華

 浅野さんの刑事役といえば、『あぶない刑事』の真山薫が浮かぶが、沙粧は親しみやすいキャラの薫と違い、一切笑顔を見せず半目で睨みを利かせるダークな刑事だ。闇落ちスレスレの刑事という役柄は、浅野さんでなければこなせなかったのではないだろうか。それほど、演技には鬼気迫ったものがあった。 

 柳葉さんの演じる松岡も、熱血漢であり、『踊る大捜査線』での寡黙な室井管理官とはタイプが違う。見ていると、改めて二人の演技の幅の広さを実感する。

 そして、同作は脇役の華やかさにも驚かされる。第一の殺人犯・谷口光二を演じた当時18歳の香取慎吾さんのインパクトはいわずもがな。ライトアップされたプールの中で大量の薔薇とともに浮かび上がるシーンは芸術的な演出だ。

 第二の犯人・北村麻美役の国生さゆりさん、第三の犯人・日置武夫役の柏原崇さんも印象深い犯人役。“闇落ちした犯人”は、オーバーでも控えすぎでも見ている側はピンとこないが、二人は人の危うさをうまく表現していた。

 さらに、麻美に殺された被害者の反町隆史さん、日置の洗脳を解く鍵となった早瀬直美役の広末涼子さん、遺体の第一発見者を演じた神田うのさんなど脇役にもビッグネームが並ぶ。特に神田さんは数秒の出来事ゆえ、後から知って驚いた人も多いはずだ。 

 一方で、警察内部は蟹江敬三さんや山本學さんら実力派俳優が脇を固めている。プロファイリングチームも同様で、IQ187で後にサイコキラーとなる梶浦を演じたのは升毅さん。現在ではロマンスグレーの髪色が印象的なベテラン俳優だが、この頃はまだテレビドラマへの出演も珍しく、見た目も若く黒髪のロン毛姿で登場。今とはまた違うセクシーさを漂わせていた。犯人役ではあるものの、その独特の色気が注目を集め、同作を機に全国にその名が知れ渡っていった。

 個人的に一番印象的だったのが、終盤で洗脳マニュアルを作っていたことが明らかになる池波を演じる佐野史郎さんだ。抑揚のない口調、読めない表情は鳥肌もので、暴れる姿は恐ろしいの一言である。ただ、佐野さんは裏のある役柄が多い。同じプロファイリングチームのメンバーではあるが、序盤から「池波が裏切るかも……」と睨んでいた感の良い視聴者も多かったことだろう。

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