■「社長というポジションを楽しもう」

須田剛一氏(撮影:弦巻勝)

 独立後は、誰にも作れない新しいスタイルのゲームを目指しました。その第1作目が『シルバー事件』というアドベンチャーゲームです。静止画、3DCG、アニメ、実写映像など、さまざまな映像手法を採り入れた表現は、当時としてはかなり珍しかったと思います。僕としては、「なんでも料理できるのがビデオゲーム」ということを証明して、自分の代表作と呼べるものを作りたかったんです。

 また、それと同時に「社長」として、納期やスタッフの数、予算といった制約から、自分たちにできることを逆算して作った作品でもありました。ゲーム制作には企画、プログラム、グラフィック、サウンドという4つのセクションが必要ですが、これが4人編成のバンドのようにうまくハーモニーを奏でることができれば、よいものができると考えていました。

 ゲームクリエイターって、本当は社長業をやりたくないんですよ。できれば、作品を作ることに集中していたい。僕も、もともと社長になるつもりなんてなかったし、会社員時代はお金の計算をしたこともありませんでした。でも、資金繰りも含め、全部やってこそ「自分のゲームだ」と言えるものになるんじゃないか。そして社長をやることによって、また違う景色が見えるんじゃないか。そう思ったんです。今は「社長というポジションを楽しもう」という気持ちで取り組んでいます。

 ただ、スタッフを雇用するということは、彼らの人生を背負うこと。給料を払えなくなったら終わりですから、責任は大きい。“なんとしてでもお金を取ってくるぞ”という意識は常に持っていますね。

 僕にとって、“社長”としてお金を取ってこられるのは「ゲームの企画」であり、“クリエイター”として生み出せる成果物は「シナリオ」です。企画については、二匹目のドジョウではなく“一匹目”になるのが僕ら、グラスホッパーの役目だと思っていて、どんなに忙しいときでも常に新しい企画を考えるよう頭を動かしています。

 世の中には、人の生活を変えてしまうほどのゲームってあるじゃないですか。そういった、新しいマーケットの一つになるくらいの可能性があるタイトルを、ウチから生み出したいと思っています。

 シナリオについて言うと、ゲームの場合、誰かを倒すという行為が発生したり、ゲームオーバーという概念があったりするので、「死の世界」を書くことが多いんですよね。その中で、僕はなるべく“ウソの死”を書かないということを大事にしています。

 ある有名な方が「ゲームにとって死は記号である」ということをおっしゃっていたのですが、僕はそれを覆したい。

 僕は葬儀屋として働いていた1年間、毎日、人の死に接していました。家族が悲しむのを見たり、ときには腐乱死体を運んだり――。過酷な場面に直面してきて、“死の匂い”の記憶はいまだに消えません。僕の根っこには、この経験が今でもあるんです。だからこそ、僕は「死」というものを丁寧に伝えたい。死の描写もそうですし、作品の中で、どうしてこの人間たちが死んでいくのかということもそう。死線の周辺にいる人たちの物語をちゃんと書いてきたつもりですし、これからも書いていきたいと思っています。

 それでいうと、現在開発中の次回作『ノーモア★ヒーローズ3』は、宇宙人たちと戦うアクションゲームなんですが、宇宙人の死に様をどうやって表現しようか、頭を悩ませました(笑)。やっぱり、血はグリーンじゃなくて、赤であるべきですしね。

 今後、大それた目標はないんですけど、これからも1本1本、丁寧にゲームを作っていきたいですね。

 僕らには世界中に、グラスホッパーの作るゲームを待っていてくれているファンがいます。そんな彼らに、常に新しいプレゼントを届けるような気持ちでやっていきたい。そうやって作り続けていくことに価値があるのかなと思いますし、歴史と信頼を紡いでいきたいですね。

 僕は、『グラスホッパー・マニファクチュア』というゲーム会社を“100年企業”という意識を持って立ち上げました。シャネルやエルメスといった海外のメゾンって、新しいデザイナーがどんどん入ってきて、そのブランドをリニューアルしていくじゃないですか。それと同じように、僕が死んだ後でも、『グラスホッパー』というブランドが、誰かの手によって受け継がれていく。新しい若いデザイナーが生まれて、ここで新しいものを作って、また外に出ていってもいい。そういう場を残していきたいと思っているんです。

■プロフィール
須田剛一/すだ・ごういち
1968年生まれ。1993年にゲーム会社『ヒューマン』に入社。人気プロレスゲーム『ファイヤープロレスリング』シリーズなどを手がけた後、1998年に『グラスホッパー・マニファクチュア』を創立。代表取締役社長を務めると同時に、ゲームクリエイターとして活躍。作品は斬新かつ独特な世界観が特徴で、世界中に熱狂的なファンを持つ。代表作として『シルバー事件』『花と太陽と雨と』『killer7』『ノーモア★ヒーローズ』シリーズなどがある。

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