目指すは「めっちゃポジティブな烏合の衆」

AD-LIVE 2022
©AD-LIVE Project

――鈴村さんは事務所の代表でもありますから、今伺ったような人への向き合い方は、そちらの“人を束ねる”というお仕事にも生きる部分があるのかなと感じました。

 

どうなんでしょう。世の中にはいろいろなタイプの社長がいると思いますが、僕は多分「何もしない社長」ってタイプ(笑)。「みんな自由でちょうどいい」というスタイルなので、僕がみんなを束ねるよりも、みんなが自分で決断するほうが重要だと思うんです。

元々事務所を作ったときに僕が想定していた会社像は、「めっちゃポジティブな烏合の衆」(笑)。烏合の衆って悪い意味に使われがちですが、みんながやりたいことをやるのが大事だと思っていて、会社という“基地”があるにすぎない。ただ、どこかで繋がっていてほしい。僕は、ぶどうの房やシナプスみたいに「どこかで繋がってるけど、みんな好き勝手にやってる」というのが、一番いい会社だろうと思っていますが、僕の考え方が役に立ってるかはわからないですね。

 

――『AD-LIVE』も事務所も、「みんなが好きなことを楽しくできる場を提供する」という意味では、同じことをされてるんですね。

 

だから大変なんだと思います。誰かが全部決めちゃったほうが早いじゃないですか? でもそうじゃないやり方がやりたいんですよ。

 

――そして、すごく性善説な考え方でもあるなと思いました。

 

本当にその通りで、今まで誰も僕を騙さなかったということは本当に感謝してますし、この先騙す人が現れたら僕は絶望すると思います(笑)。でも“自由”って、そこが大事な気がするんですよ。「そんなきれいごと言ってらんねえよ」というのが今の社会だと思いますが、そこがうまく回れば、やりたいことがやれる。

僕は、時代が今、良くなってきているとすら思っているんです。本当にいろんな社会問題も経済問題もあって、こんなことを言ったら怒られそうですが、でも“個人の力”が尊重される可能性が出てきた。発言できる場所がいっぱい増えたし、個人でもクリエイティビティに向き合えるようになった。

昔は組織に所属しないとものを作れなかったけど、実はそういう時代はとっくの昔に終わっていて。webでは「最初から最後まで、音楽も絵も自分ひとりでやりました」という作品がいっぱいあるし、その中には素晴らしい作品もたくさんある。そう考えると、ちゃんと律して生きていけば個人が何かを為せる時代だと思うし、少しずつ社会もそういうものを「面白いね」と思い始めた空気を感じているんですよ。

 

若い人たちをサポートしたり、場を作れる人間になりたい

 

――鈴村さんは、エンターテイメントの価値というものを、どうお考えですか。

 

エンタメの価値は、本当に難しいところにありますよ。

 

――特に今、このコロナ禍の時代においては、と思います。

 

でも、いつの時代もそうですよ。僕が一番ドキッとしたのは、やっぱり東日本大震災のとき。あのとき、僕は勝手に「これで終わるんだ、もう止まらなきゃいけないんだ」と思いました。たとえ今が落ち着いても、またこういう出来事は起きるだろうし、社会が変わってしまったときに最初になくなるのはエンタメだって。でも「そんなことないよ」と言ってくれた人がたくさんいて、その人たちにはすごく勇気をもらいましたし、今でも感謝しています。

そのときに“ちゃんとすべてのことに役割がある”と学んだ気がするんです。どんな職業も全部、誰かの幸せのためにある。例えば喉が渇いたときに蛇口をひねれば水が出てくるということは、水道を管理している人が僕たちに幸せをくれている。エンタメもそれと同じ役目なんだろうなと思えたんですね。どんな職業も誰かを満たすために存在していて、その人がまた誰かを思えるようになって、ちゃんと幸せの連鎖が生まれる。僕は職業ってそういうものだと思うんです。職業をカテゴライズして「ああ、エンタメはなくなる職業だな」なんて思っていたこと自体が間違いだったのかもしれないなと、ここ数年は思っていますし、おかげで楽しく働けています。

 

――そんな中で、今後やっていきたいことなどはありますか。

 

これからもプレイヤーとしての活動はずっと大事にしたい、ということを前提とした上で話しますね。『AD-LIVE』でプロデュースの仕事を体験させてもらって、裏に回ることの面白さやたくさんの人たちが動いていること、その価値を知ることができました。そして、そこに関わる若い人たちがいっぱい出てくること、その循環というのが必要だし大事だということがよくわかったんです。だから、若い人たちが何かを生み出そうと思ったときにちゃんとサポートしたり、時には場を作れるような人間になりたい。それが、僕がこれからエンタメに携わっていく大きな目標になっていくかと思います。そうやって若い人にどんどん出てきてほしいですし、僕も結構経験はあるので「何でも聞いてよね」という気持ちでいますね。

 

【PROFILE】
鈴村健一 すずむら・けんいち

大阪府出身。TVアニメ『マクロス7』モーリー役で声優デビュー。『おそ松さん』イヤミ役、『銀河英雄伝説 Die Neue These』ヤン・ウェンリー役など、多くの人気作に出演。さらにラジオパーソナリティや音楽活動など、幅広い分野で活躍。舞台『AD-LIVE』の総合プロデューサーや、自身が所属する声優事務所インテンションの代表取締役も務めている。
YouTubeチャンネル「鈴村健一の声優のかじり方」では声優志望者に向け動画を配信中。

 

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