いよいよ公演初日が明日に迫った舞台劇『AD-LIVE(アドリブ) 2022』。総合プロデューサーを務める声優・鈴村健一に第1回・第2回と話を聞いてきたが、最終回の今回は、『AD-LIVE』シリーズの生みの親である彼の人生観や組織論にフォーカス。舞台上でのどんな選択も「それも面白いね!」と肯定する『AD-LIVE』の懐の深さは、鈴村自身の柔らかな人柄と重なるが、果たしてその価値観はどのように育まれていったのだろうか。そして常に挑戦を続ける鈴村が、この先に目指す道とは。(全3回)
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“相手が自分と違う”ということが面白い
――前回のキャスティングに関するお話や、普段のトークなどを伺っていても、鈴村さんは“人”に対する観察眼が鋭くて、とても肯定的に表現される方だなと感じているのですが、人と向き合う際に大事にされていることはありますか。
僕は人と向き合うとき、「自分とは違う」ということをとても大事にしてますね。そうするとね、ほとんど肯定できるんですよ。“僕にないものをみんなが持っている”ということが、とにかく素晴らしいしうらやましい。だから、みんな面白いと思える。そういう意味ではすごくシンプルですね。
そこに「僕はこう思っている、君もこうすべきだ」という気持ちが入ってきてしまうと、自分の価値観でしかものが見られなくなって、おかしくなってしまう。もちろん、社会やグループなどにおいて「こういう風に動いたほうがいいよね」というものは存在しているので、「あなたは僕と違うことをやっているけど、このグループならこういうことをやったほうがいいんじゃないかな」と伝えることもあります。自分と同じ方向に導いて、価値観をすり合わせていく。でもそれは、できるだけやりたくないんですよ。僕は本当に「みんな好き放題生きたほうが、人生面白いよね」と思ってます。
――お若い頃からずっとそういう考えでした?
あー……いや、そうでもないですね。だいぶ経ってから……というか、役者の仕事を始めてから変わった感じがします。
役を演じるときにもっとも勉強することって、「人とは何か」なんですよ。「自分が何を考えているのか」「自分がどういう人間か」と自分自身を深く観察して、そこで得たものを使って役を演じるわけです。「自分ならこうするけど、役はこうしてる。それなら、役がやることを演じてあげるために、『僕の人生にはこんな可能性もあるよね』というのを探してあげる」というのが、お芝居の面白いところ。「人生にはいろんな可能性があるんだな」「僕にもこういう道があったかもしれないな」と何度もイメージするうちに、自分の価値観に固執しなくなってきたんですよね。
その上で相手がどう反応するかもお芝居の面白さなんです。それは、先程(第1回)話したエチュードのトレーニングで、ものすごく感じました。自分が想定していたのとはまったく違う反応が来たときって、ゾクゾクするくらい面白いんですよね。まさに“相手が自分と違う”ということが面白い。だからその違いを肯定的に受け止められるようになったのは、お芝居のおかげだなとすごく感じます。