手に汗握る激闘と少年たちの笑いあり涙ありの友情を熱く描いた名作ヤンキー漫画『ろくでなしBLUES』。1988年から1997年という長きにわたって『週刊少年ジャンプ』(集英社)をけん引し続けた本作は、森田まさのりさんの描く個性豊かなキャラクターたちと、拳と拳をぶつけ合う熱い喧嘩シーンで多くの読者を夢中にさせた。
2026年冬には、29年の時を経て『グランドジャンプ』にて新作の外伝『ろくでなしBLUES ─鬼葛─』の連載も予定されている。そこで今回は、名作『ろくでなしBLUES』のエピソードの中から、今なお記憶に残るベストバウトを振り返ってみたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■インパクトナンバーワン!孤高の鬼塚VS太尊
数多くの魅力的なキャラクターが登場する『ろくブル』の中でも、ランチコートを華麗に着こなし、ひときわ強烈な存在感を放っていた鬼塚。渋谷の楽翠学園を仕切る彼は、敵対する相手を容赦なく打ちのめす独裁者でありながら、頭も切れるフィクサー的な男である。
吉祥寺の前田太尊、浅草の薬師寺、池袋の葛西とともに「東京四天王」の1人に数えられる彼の登場は、物語のボルテージを一気に引き上げた。
きっかけは、太尊の仲間である山下勝嗣が今井和美との渋谷デート中に楽翠学園の生徒とモメたことだった。帝拳高校の存在を知った鬼塚は全校動員で吉祥寺に乗り込み、生徒を襲撃。こうして渋谷VS吉祥寺の壮絶なバトルの火蓋が切られた。
圧倒的な強さを誇る鬼塚の前に、吉祥寺勢は次々と倒されていく。そんななか太尊が満を持して現れ、吉祥寺の地下道でタイマンが始まった。
鬼塚の強さは太尊をも追い詰め、ついにはダウンを奪う。さらに太尊の渾身のアッパーを受け、鬼塚は顎を割られながらも倒れず、逆に相手の拳を潰して自身の血を飲み込んで再び向き合う。強靭な精神力はもちろん、彼の異常なタフさがにじみ出た名シーンだ。
双方が瀕死状態のなか、残った手も砕かれた太尊が決死のソバットを繰り出すと、これが鬼塚の顎にヒット。倒れ込む鬼塚は、とっさに落ちていた串で太尊の足を刺した。
そんな鬼塚に向かって太尊は、「本当にやっちまう気なら胸刺したはずだ」と自らの心臓を差し出し、自分が死んだら仲間が報復に出ると宣言。恐怖で手下を従わせる鬼塚に、仲間との信頼の強さを語りかけた。彼らの絆の強さを感じていた鬼塚は、その言葉を受けて素手で突っ込み、太尊のバックドロップによって決着がつくのだった。
この敗北をきっかけに己と向き合った鬼塚は、これまでの冷酷さを捨てて心を入れ替えていくこととなる。恐怖ではなく仲間を思いやることを知った彼の成長こそ、鬼塚という男が今もなお愛され続ける理由なのだろう。
■前田太尊が負けた!? 圧倒的な強さにシビれたVS葛西
続いては、池袋・正道館高校の頭を張る葛西を見ていこう。彼は圧倒的な力と残虐さで周囲を支配する、まさに暴君という言葉が相応しい男である。「東京四天王」という呼び名を嫌悪する葛西は、己の絶対的な強さを証明すべく鬼塚や薬師寺を襲撃、四天王制覇へと動き出す。
葛西の恐ろしいほどの強さに皆が恐れをなすなか、太尊は池袋に乗り込んでタイマンを張った。しかし、自慢のアッパーも決定打とはならず、葛西を相手に人生初の敗北を喫してしまった。
一方で、強者として君臨する葛西にも重い背景があった。かつて喧嘩に負けて仲間を失ったことが傷となり、強さを誇示することでしか仲間をつなぎ止められなくなっていたのだ。“止まれない回遊魚”とたとえられていたが、冷酷さの裏に隠されたその孤独はあまりにも切ない。
そんななか2人は吉祥寺で再戦を迎える。太尊はまたしても追い詰められるが、何度倒れても立ち上がる姿と仲間たちとの絆に葛西の心が揺らぐ。その一瞬の隙を突いて、太尊のスクリューフック一閃。これで形勢は一気に逆転する。
地面に崩れ落ちた葛西の目に映ったのは、自分の身を案じる正道館の仲間たちだった。皆の想いを知った葛西はどこか吹っ切れた表情で立ち上がり、葛西はアゴ、太尊はアバラと互いに重いダメージを抱えながら、あえてそこを狙わないという男のプライドをかけた真っ向勝負に突入した。
ラスト、葛西に壁際に追い詰められて万事休すかと思われたその時、太尊はとっさに壁を蹴り、全身全霊を込めた一撃で勝利をおさめるのだった。
喧嘩で敗北を喫した葛西だったが、今回彼の周りには正道館の仲間たちの姿があった。強さでしか人をつなぎ止められなかった男の心が解放されたこの戦いは、作中でもトップクラスのベストバウトといえるだろう。


