■獠の育ての親であり、敵対しながらも深い愛情を持つ

 海原は飛行機事故で唯一生き残った少年を「冴羽獠」と名付けて育てた、親のような存在でもある。当時、中米の反政府軍のゲリラ兵として活動していた海原は、劣勢から巻き返しを図るため、兵士にエンジェル・ダストを投与するという非人道的な作戦を提案した。

 反政府軍はその案を退けたが、海原はまだ若かった獠をだましてエンジェル・ダストを投与。その結果、獠はたった1人で政府軍の小隊を壊滅させるほどの戦闘能力を発揮した。

 獠にとって海原は、天涯孤独の身となった自分を育ててくれた恩人であると同時に、非道な手段で自分を利用した許しがたい裏切り者でもある。その複雑な感情は、海原が獠の自宅を突如訪れた際に、気配を察知しただけで髪の毛が逆立つほどの殺気を放ったほどで、彼の心の傷の深さがうかがえる。

 しかし、それでも獠の心の中には、海原への感謝の気持ちも存在していた。かつての戦争で、政府軍の捕虜となった獠を助けるため、海原は部隊の反対を押し切って1人で救出に向かった。その逃走中、敵軍の襲撃を受けて左足を失う重傷を負いながらも、海原は獠に笑顔を見せたのである。

 この出来事によって獠は海原の奥底にある深い愛情を知り、彼を本当の父親のように感じるようになっていった。

 この絆は、2人が敵対してからも消えることはなかった。歪んだ関係性ではあるが、獠にとっては唯一無二の父親であり、海原もまた、獠を実の息子のように思っていたのである。

 そんな2人の複雑な親子関係は、物語のラストでついに1つの結末を迎える。死闘の末に海原を倒した獠だが、船の爆発によって防弾ガラスに囲まれた場所に閉じ込められてしまう。その絶体絶命の状況で、死の間際に正気を取り戻した海原は、爆弾が仕込まれた自分の義足を撃てば船底に穴を開けて脱出できるはずだと彼に教えるのだ。

 海原は、地獄のような戦場で人間の醜さを見続けてきた。その結果、生き延びるためには他者を憎むしかなかったのだ。戦争が終わってもその気持ちから逃れることはできず、自分の暴走を止められるのは唯一獠だけだと悟っていたのである。

 最後まで救えなかったことを「すまない…おやじ」と詫びる獠に対し、最後は「ありが…とう… 息子……よ…」と言い残して息を引き取った海原。これが、ようやく本当の親子として心を通わせた瞬間であった。

 

 地獄のような戦争の中で冷酷な殺人鬼となってしまった海原だが、彼には別の顔もあった。たとえば初登場時には、獠のお約束である不意打ちのカンチョーを食らって悶絶するなど、『シティーハンター』らしいコメディタッチなおちゃめな一面も見せている。

 海原の存在は、それまで謎に包まれていた獠のルーツを明らかにする上で不可欠だった。そして、そう簡単には超えられない最強のラスボスとして君臨し、読者を惹きつけた。連載当時、筆者も毎週ハラハラしながら読んでいたことを思い出す。

 その頃は、ただ卑劣で許せない悪役に感じていたが、大人になってからあらためて読み返すと、彼が過酷な戦場で味わったであろう地獄や悲しみが伝わってきて、なんだかやるせない気持ちにさせられる。

 単なる悪では片付けられない、複雑で深みのあるキャラクター。それが海原神の最大の魅力といえるだろう。

 

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