■庶民的な日常と重厚感あふれる飛行艇のリアリティ『死の翼アルバトロス』
都会派でしゃれたイメージが定着した『PART2』の“赤ルパン”に、泥臭い人間味を与えたのがテレビアニメの第145話「死の翼アルバトロス」です。
作画はテレコム・アニメーションフィルムが担当。当時テレコムに在籍していた宮崎さんは「照樹務」の名義で、脚本・演出・絵コンテを担います。そして通常のアニメ作品の約2倍にも迫る「9000枚」というセル画枚数を使用し、劇場映画ばりのハイクオリティーなドタバタ活劇を実現しました。
物語の冒頭では広々とした秘密のアジトではなく、おんぼろで狭いキャンピングカーでの「すき焼き」のシーンでした。室内には洗濯物が干され、ゴミが散乱、流しには洗い物がたまっている生活感あふれる風景が……。さりげない描写でしたが、そこにキャラが生きていることを実感させられました。
このエピソードは、ロンバッハ博士が開発した超小型原爆を巡る騒動がメイン。不二子がその小型原爆を狙って博士に捕まり、裸にされながらも、フランス映画の『エマニエル夫人』を彷彿させる余裕と優雅さを披露してドキッとさせられます。
そして物語中盤からは、巨大飛行艇アルバトロス号との空中戦と、翼上での銃撃戦が圧巻。博士の手下が放った追尾ミサイルのリアルな動きと、銭形の銃を奪った次元がそれを撃ち落としていく一連の攻防はテレビアニメとは思えない迫力を感じたシーンでした。
それだけでなく風圧を感じさせる不二子のリアルな髪の動きや、プロペラの間を縫うような動きのあるカメラワーク、そして巨大飛行艇の圧倒的な重厚感と存在感を余すことなく表現。最後はボロボロになりながらも結果的に世界を守り、去っていくルパン一味の姿はどこまでも粋でかっこよく、泥臭いまでの人間味にあふれていた神回でした。
■「東京の空を舞うロボット…」本物の大怪盗が暴く真実『さらば愛しきルパンよ』
第2シリーズを締めくくる第155話(最終回)『さらば愛しきルパンよ』の回も、宮崎ルパンを象徴するエピソードです。こちらも宮崎さんが脚本・演出・絵コンテを担当し、ルパンファンから熱烈な支持を集めました。
物語は、東京を舞台に少女・小山田マキが操る装甲ロボット兵「ラムダ」が大暴れします。当初はルパンの指示による破壊行動と思われましたが、彼女を利用していたルパン一味は偽物……というシナリオです。
この回に登場したロボット兵のラムダは、のちに『天空の城ラピュタ』に登場する古代ロボットの原型ともいえるデザイン。また、そのラムダを操縦する少女・マキの声は島本須美さんで、キャラの雰囲気的には『カリオストロの城』のクラリスというより、『風の谷のナウシカ』のナウシカのイメージに近いものがありました。
ラムダは武骨で無機質な機械でありながら、マキの指示には従順。歩く時は重い金属の体を揺らしながらバランスを取り、飛び立つ時の滑らかな動きは目を見張ります。言葉を持たない無機物に魂を宿らせる、宮崎アニメの真骨頂ともいえる演出でした。
そしてこのエピソードの凄さは、本編の半分以上が過ぎるまで「本物のルパン」が姿を現さないという意外性です。視聴者は偽ルパンが巻き起こす騒動をハラハラしながら見守ることになります。
終盤、銭形に扮していたルパンがようやく姿を現します。この回のルパンは、いつものような超人的な大立ち回りを見せるわけではなく、結果的にマキという1人の少女のピンチを救うだけの、頼もしい「おじさま」的な立ち位置だったのです。
ラストで、マキを保護した銭形がルパンの行方を尋ねると、「もう、あの方は行ってしまいました。ありがとう、ルパン」と彼女が答える構図にも既視感が……。声はクラリスと同じ島本須美さんで、BGMに『炎のたからもの』が使用されるなど、『カリオストロの城』のセルフオマージュのような演出は、ファンへの最高の贈り物となりました。
また、このエピソードでは、ルパン一味の声を務める山田康夫さん、小林清志さん、井上真樹夫さんによる素晴らしい演技力も見どころです。偽物とクールな本物を見事に演じ分け、途中までは視聴者もしっかりだます名演技でした。
今のアニメファンにとって宮崎駿さんといえばジブリ映画のイメージが強いかもしれませんが、70年代後半から80年代にかけては、さまざまなテレビアニメ作品でも活躍されました。その代表的な作品こそが『ルパン三世』かもしれません。
今回のコラム執筆に際し、あらためて宮崎駿さん絡みのエピソードを視聴し直しましたが、とても半世紀近く前の作品とは思えないほどワクワクさせられ、リアルタイムで見た時の感動と興奮がよみがえります。
当時のアニメの中でも群を抜いていたダイナミックかつ美しいアニメーションに、驚くほど緻密に描かれたメカニック、そして綿密に練られたシナリオ……『ルパン三世』という作品が、時代を超えて愛され続けているのも納得の素晴らしいエピソードばかりでした。
■宮崎駿さんの劇場映画初監督作品をチェック



