■観返して気づく「細かな伏線」描写

 第1話以降も、気になる描写はまだまだある。

 第3話で「ターボー」こと小山隆弘(森本慎太郎さん)が狙われたシーン。東雲は直前の記者会見には出席していたはずなのに、ガラス板が落とされる囲み取材の場には、なぜか姿がなかった。第9話、宇津見が自身の犯行を回想するシーンにこの事件は含まれていなかったため、あるいは東雲が実行犯だった可能性も考えられる。

 さらに、第6話で東雲と今國が顔を合わせるシーン。「委員長」こと小林紗季(藤間爽子さん)が園子を陥れたことを知った東雲は、それを高木たちに伝えるためイマクニを訪れる。そして今國に名刺を渡し、「東雲と申します」と初対面かのように挨拶する。

 だが、その前のシーンですでに、彼女の仕事場のデスクにイマクニのショップカードが置かれているのを確認。つまり、東雲と今國の間に何らかのつながりがあり、しかもそれを高木たちに隠す必要があったことが、この描写ですでに匂わされていたことになる。

 そんな直接的な伏線がある一方、細かな描写にハッと気づかされる場面もある。 

 たとえば、第3話には、高木がテレビのニュースで流れる「水死体のニュース」を気にする場面がある。この「水死体のニュース」については、事件の真相にかかわる伏線ではないかと話題になり、『TVerオリジナル座談会「#イイワル 考察」スペシャル!』でも深堀りされている。

 しかし、そんな予想に反し、最後まで水死体のニュースが事件にかかわることはなく、高木が小山の身を案ずる以上の意味はなかったようだ。

 ただ、あらためてこのシーンを観返してみると、高木がニュースを凝視するかたわらで、娘の花音が「リョーマが森先生に怒られて……」と楽しそうに話しているのに気づく。

 字幕表示でもこの花音の発言は拾われていないが、「森先生」とは花音の担任で、のちに「7人目」であることが発覚する森智也(古舘佑太郎さん)のこと。この時点では、一連の事件に関係してくる存在になるとは、まったく予想できなかった人物だ。

 しかし、替え歌にも含まれる「森」という名前も含め、第3話の段階で匂わされていたことになる。さらに、みなが怪しんだ「水死体のニュース」は、森の伏線から視聴者の注意を逸らすためのものだったとも考えられるのだ。

 その意味では「水死体のニュース」には役割があったともいえるが、放送当時は重大な伏線に思えたものの、今観返してみるとミスリードだったと思われる描写は、他にもある。

 その筆頭は第4話のラスト、園子の後輩・松井健(秋谷郁甫さん)が園子の等身大パネルを殴り飛ばすシーン。なかなかに衝撃的だったが、本筋にかかわる要素ではなかった。単に好意を寄せていた園子に相手にされない苛立ちが爆発したのだろう。

 本編外では、番組放送に合わせて作られた「イマクニ」のInstagramに何度も出てくる「萌歌の姉」もそうだ。このアカウントは店のアルバイトの萌歌が投稿している設定で、たびたび「お姉ちゃん」について言及していたが、結局、本編では触れられることのないまま終わった。ただ、仲のいい姉がいるというだけの話だったのだろう。

 そのほか、第7話の“追いかけっこ”で、小山と「トヨ」こと豊川賢吾(稲葉友さん)に挟みうちにされたはずの犯人が突如姿を消したシーンは、何度観返してみても謎が残った。物語の中でもかなり重要なシーンだったので、何かしらの解説が欲しかったところだ。

 

 放送が終わってもなお、さまざまな謎が残り、ファンの間では「あれはどういうことだったんだろう?」と考察が続いている『良いこと悪いこと』。これはまさに、本作が最初から最後まで視聴者を惹きつけた良質なミステリーだったことの証だろう。加えて、最終話で投げかけられたメッセージは、考察を楽しんできた視聴者の心に深く刻まれたはずだ。

 緻密に練られた本作には、初見では気付きにくい“ヒント”がいくつも散りばめられている。物語が完結した今、あらためて全話観返してみてはいかがだろうか。

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