数万円から数十万円の値段がつくこともある「レトロゲーム」の世界。そんなソフトがズラリと揃う『ハードオフTOKYOラボ吉祥寺店』の店長にして、自身も大のゲームコレクターである大竹剛氏が、毎回1本のソフトを語るこの連載。今回、ショーケースに並ぶソフトの中から取り上げるのは——?
■バンダイが発売したモニター一体型ゲーム機『光速船』
ハードオフ大竹店長の「レトロゲームちょっといい話」第26回
『ハードオフTOKYOラボ吉祥寺店』の店長、大竹剛です。今回は、当店の中でも、とびきり珍しいゲーム機を紹介しましょう。1982年、GCE社こと「General Consumer Electronics」が発売した『VECTREX』というアメリカの家庭用ゲームマシンです。日本では、1983年にバンダイから『光速船』という名前で販売されました。
9インチの縦型ブラウン管モニターが一体化したゲーム機で、本体の下部に収納されているコントローラーを引き出して遊ぶ仕組みです。本体に『マインストーム』というゲームが収録されているほか、別売のカートリッジを差し替えていろいろなゲームがプレイできます。モニター自体はモノクロなんですが、「オーバーレイ」というカラーフィルムを画面に重ねることで、画面がカラーのように見えました。
内蔵されているモニターは“ベクタースキャン”という、通常のテレビと異なる特殊な表示方式を採用したもの。点と線のみを描く方式で、私自身はあまり遊んだことがないのですが、当時のアーケードゲームには『スター・ウォーズ』(アタリ/1983年)をはじめ、ベクタースキャンを採用したものもありました。『VECTREX』に最初から入っている『マインストーム』も、『アステロイド』(アタリ/1979年)というアーケードゲームからインスパイアされてるようです。
このベクタースキャンによるゲームは、ドット絵とはまったく違う映像です。拡大・縮小の表現が得意な描画方式で、『マインストーム』にも多用されています。日本の家庭用ゲーム機本体に拡大・縮小機能が搭載されたのは、1990年のスーパーファミコンから。それより8年も前にやっていたと思うとスゴイですよね。
映像の表現方法を技術的にも模索していた時代なんでしょう。現在にはない表現には、どこかロマンを感じますよね。もしドット絵じゃなくて、ベクタースキャンの方向でゲームの映像が進化していったら、どうなっていたのか。つい考えてしまいます。
■定価54800円! スーパーでレンタルサービスが行われていた
日本で『光速船』が発売されたとき、私は中学生か高校生くらい。そのころ、地元のダイエーで『光速船』のレンタルサービスをやっていたのを覚えています。
1990年には「凄いゲームを、連れて帰ろう」というキャッチコピーで、ネオジオがレンタルを開始しましたが、その先駆けですよね。『光速船』は定価が5万4800円もしましたから、買うなんてあり得ない。借りて遊ぶものという感じで、ネオジオも同じ感覚だったと思います。
でも、『光速船』を実際に借りることはありませんでした。お小遣いの少ない学生には、いつか返さなければならないもの、自分の物にできないサービスにお金を払うなんて、ちょっと考えられなかったんです。
ということで、『VECTREX』に初めて触ったのは、実はこの品物を買い取ったとき。10年ほど前、まだ奈良の店舗に勤務していたころですね。
実物に会えたのが嬉しくて、店のショーケースに飾っては、毎日電源を入れて動いているところが見えるようにしていました。今、吉祥寺店では飾るスペースがなくて、ハードコーナーに置いたままにしていますけど、いつかまた動かしてお見せしたいですね。


