
数万円から数十万円の値段がつくこともある「レトロゲーム」の世界。そんなソフトがズラリと揃う『ハードオフTOKYOラボ吉祥寺店』の店長にして、自身も大のゲームコレクターである大竹剛氏が、毎回1本のソフトを語るこの連載。今回、ショーケースに並ぶソフトの中から取り上げるのは——?
■テクノスジャパン時代の大竹店長が開発したファミコンソフトとは?

ハードオフ大竹店長の「レトロゲームちょっといい話」第17回
『ハードオフTOKYOラボ吉祥寺店』の店長、大竹剛です。連載第1回でもお話しましたが、私はかつて、ゲームメーカー「テクノスジャパン」の新潟事業所で、くにおくんのドット絵を描く仕事をしていました。
開発に携わったゲームのうち、ファミコン用のソフトは『いけいけ!熱血ホッケー部「すべってころんで大乱闘」』(1992年)と『熱血格闘伝説』(1992年)の2本です。
現在、当店では『いけいけ!熱血ホッケー部』を4950円(税込)で、『熱血格闘伝説』を5500円(税込)で販売中です。これまでの連載では、価格が高騰しているソフトを中心に取り上げてきたこともあって、お求めやすい価格に感じるかもしれません(笑) このコラムを読んで気になったら、遊んでみてくださいね。
■ファミコンの仕様で防具を諦めた『いけいけ!熱血ホッケー部』
初めて開発に関わることになった『いけいけ!熱血ホッケー部』は、もともと『熱血高校ドッジボール部』や『熱血高校ドッジボール部サッカー編』などで好評を得ていた、くにおくんがスポーツをする企画としてスタートしました。入社当時はまだテーマが決まっていなくて、アイスホッケーではなく、アメリカンフットボールのゲームになる可能性もありました。
この企画を聞いたときにまず思ったのが、アイスホッケーにしろアメフトにしろ、体格のいい選手がごついプロテクターを付けて戦う競技なので、「ファミコンで表現できるかなぁ」ということ。ファミコンというハードは、横一直線にたくさんキャラクターが並ぶと、一部が画面から消えちゃう仕様になっているんですよね。
横16ドット×縦32ドットで表現した『ダウンタウン熱血物語』(1989年)のキャラの場合は、真横に4人まで並べます。なので、主人公のくにおとりきのほかに、敵がふたり並ぶことがあっても大丈夫なんですね。やはりデフォルメキャラが使われた『熱血高校ドッジボール部サッカー編』(1990年)も同様です。
でも、サッカーの選手は防具を着けていません。あのデフォルメキャラに防具を着けるとなると、キャラのサイズはもっと大きくしたい。ただ、大きくすると、横一直線に並ぶことのできるキャラの数が減ってしまう。アイスホッケーのゲームで、さすがに3人では画面が寂しいし、プレイも成立しないんじゃないかと思います。
自分としては、防具を着けたガッシリしたキャラが、前傾姿勢で進む様子を表現したかったんですよね。アイスホッケーやアメフトというテーマも、海外展開を考えてのチョイスでしょうから、しょぼいものにするわけにはいかないと思っていました。でも、上司からは「くにおくんが立っている絵に、ホッケーのスティックが付いているくらいでいいよ」と指示されて、新入社員としてはその通りにするしかなかったんです(笑)。
今振り返ると、もう少しなんとかできたハズなんですよね。上司はアーケードの『西遊降魔録 流棒妖技ノ章』(1988年)に携わっていた方で、このゲームでは孫悟空と猪八戒が棒術を使います。振り返ってみると、ホッケーでのくにおくんにスティックの組み合わせというのも、もしかするとあの形をイメージしていたのかも……。当時気付いていれば、もうちょっといい絵にできたかな……とずいぶん後になってから思いました。
ほかにも、ファミリーコンピュータディスクシステムの『アイスホッケー』(任天堂/1988年)みたいに、選手自体をもっと小さく描けば防具も表現できたかな……とか。当時、開発室にアーケードの『ヒット・ジ・アイス』(タイトー/1990年)が置かれていたのは、あれを目標にしようってことだったのかな……とか。入社したての頃は目の前のことにいっぱいいっぱいで、いろいろなことに気付くことができなかった。後悔しかありません。
でも、今でも「おもしろい」「好きなゲーム」と言って下さる方もいて、嬉しい限りです。