
大人気漫画『クレヨンしんちゃん』の主人公・しんのすけの父である野原ひろし。彼が一人、己の流儀で昼メシと向き合う姿を描いた異色のスピンオフグルメ漫画が『野原ひろし 昼メシの流儀』です。
2015年12月の連載開始以来、多くの読者に愛され、コミックスは14巻まで刊行。SNSでも話題になり、10月3日からはアニメの放送もスタートします。
この作品を描いたのは、これまで『パチラッチ』『こちらツカハラ探偵事務所』など数々の漫画を手掛けてきた塚原洋一さん。今回は塚原さんに、異色のスピンオフ作品誕生のきっかけから、作品作りのこだわり、アニメ化への思いまで、お話を聞きました。
■「おじさんがぶつぶつ言う作品は得意分野」
――漫画『野原ひろし 昼メシの流儀』は2015年12月に連載が開始されました。最初、このお話が来た時にどう思われましたか。
塚原:最初にこのお話を受けた時のことはよく覚えているんですけど、「それ絶対やりたいです」って答えたんです。前から『クレヨンしんちゃん』も読んでいましたし、面白そうだなと思いました
以前私が描いた漫画に『男の流儀』(日本文芸社)という作品があって、様々なことに流儀を持つ38歳の平凡なサラリーマンの姿を描いています。その作品を担当編集さんが読んでくれていたんですね。
その第3話に立ち食いそばを食べる回がありまして、主人公が注文すると、急いでいるのに店員がやけにのろのろしてイライラしたり、そばが来て七味をかけようとしたらふたがすごく硬くて、思いっきりひねったらパカって開いて全部かかったり……みたいな内容なんです。それを読んで、編集の方が「これだ!」と思ったみたいで。
そして『昼メシの流儀』を「『男の流儀』みたいに書いてほしい」と言ってくれたおかげで、何がゴールなのかはその時点で分かりました。おかげで、1話目はすんなりネームが描けましたね。
――塚原先生の作品は男性一人に焦点を当てた作品が多いですし、これまでの作品と通じる部分があったのですね。
塚原:そうですね。主役はしんのすけではなく、父・野原ひろしでしたが、私の作品は『男の流儀』以外にも、平凡なおじさんがぶつぶつ独り言を言いながら何かに打ち込むような作品が多く、得意分野でもあります。
本作のひろしも、どこにでもいるような平凡な会社員で、物語も基本的にひろしが食事をするだけ。でも、彼は限られた食事の時間を楽しもうとしています。たまにちょっとした困難が訪れて、それに勇敢に立ち向かったり、自分なりのこだわりを貫いたりと、ひろしが一生懸命になる姿に、読者の方も面白く感じてくれているんじゃないかなと思っています。
――本作は連載当初から、特にSNSを中心に非常に話題になりました。ユーザーに様々な形で愛されている状況については、どのように受け止めていらっしゃいますか?
塚原:率直にすごくうれしいです。特に狙って描いたわけではないので、たまたまはやっただけだと思うのですが、作品の知名度も上がりましたし、ポジティブに捉えています。ただ「自分を野原ひろしだと思いこんでいる一般人」というワードが画像と共にはやったと思いますが、それを本編だと勘違いしている方がいるようなので、「それは違うよ!」とは教えてあげたいですね(笑)。
ただ、『クレヨンしんちゃん』本編との絵柄の違いから「これ野原ひろしじゃない」みたいな反応は少しありました。特にアニメのイメージだとひろしはもっとほんわかしているのですが、自分の作風はどちらかというとハードボイルドな作品が多く、あの雰囲気は出せない。だから違和感を持った人は多かったと思います。それでも、「ネタ画像しか見てなかったけど、ちゃんと漫画読んでみたら面白かった」という反応もあり、単行本が出たときはかなり反響もあったので、ありがたかったです。