■担当編集・片山氏と二人三脚で作り上げられた『鬼滅の刃』
『鬼殺隊見聞録』では、『鬼殺の流』の落選をうけて、これは小さく修正しても印象が変わらないと判断し、いっそのこと主人公を変えようという話になったことが語られている。
そこで「明るくて普通のキャラはいないか」と質問すると、吾峠氏は脇役で登場予定だった“鬼にされた妹を治すために鬼殺隊に入る炭売りの少年”を挙げた。これを「ザ・主人公」と気に入った片山氏の一声で、炭治郎が誕生することとなる。そして、寡黙・盲目といった流の設定は冨岡義勇や悲鳴嶼行冥に引き継がれていった。
主人公の変更はストーリーにも影響を及ぼすため、決断には覚悟がいったことだろう。だが、この決断が社会現象を起こすヒットに繋がったのだ。
また、流が主人公を降りたことで必然的にタイトルも変更となる。吾峠氏は「大正コソコソ噂話」で『鬼滅奇譚』『悪鬼滅々』『鬼殺の刃』など9案を考えていたと明かしているが、「鬼」「刀」を入れた『鬼殺の刃』が候補に残り、最終的には「滅」を使った『鬼滅の刃』に決定した。
二人三脚はその後も続き、様々な設定の変更が行われる。たとえば、時代が大正になったために詰襟の隊服が生み出され、当初は素顔だった鱗滝も片山氏の「インパクトに欠ける」という声に応える形で「思いつかないからとりあえずお面をつけてみた」と天狗の面をつけた姿になった。
さらに片山氏は、当初吾峠氏が考えていた呼吸の名称「鱗滝式呼吸術」もダサいとバッサリ。話し合いの末、「〇〇の呼吸」という子どもでも覚えやすいシンプルな名前がつけられることとなる。
編集者の意見がどれだけ有益なのかがわかるエピソードのオンパレードだが、それはもともと吾峠氏の漫画家としての才能が高く、アドバイスを受け入れる柔軟な姿勢があったからこそ。二人の息の合ったやり取りから『鬼滅の刃』が出来上がっていったことを知って作品を読み直すと、また違った一面から物語を楽しめることだろう。