デビュー前の読み切り『過狩り狩り』公開も話題!吾峠呼世晴「初期作品」に見る“『鬼滅の刃』の原点”の画像
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』第3弾キービジュアル (c)吾峠呼世晴/集英社 (c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

  7月18日、今年最大の注目映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開。公開10日間で観客動員910万人、興行収入128億円を突破するロケットスタートを記録した。

 オープニング成績、初日成績、単日成績で日本映画歴代1位を獲得した『無限列車編』の記録を塗り替える快挙に日本中が沸き、前作の興行収入404億円をいつ越すかにも注目が集まっている。

 また、『週刊少年ジャンプ』で連載された吾峠呼世晴氏による原作漫画は2020年に終了しているが、7月17日には集英社がコミックス全23巻の全世界累計発行部数が2億2000万部を突破したことを発表した。

 連載第1作目にして、コミックス、アニメで次々と偉業を達成する『鬼滅の刃』。今回は、伝説を打ち立て続ける吾峠氏が初期に描いた『鬼滅の刃』の前身とも言える作品たちを振り返りたい。

※本記事は各作品の内容を含みます。

■あのキャラも登場していた!『鬼滅』の原型『過狩り狩り』

 2億2000万部突破発表の翌日、7月18日には集英社の月例賞「JUMP新世界漫画賞」の第100回を記念して吾峠氏の読切『過狩り狩り(かがりがり)』の無料公開が行われた。同作は吾峠氏が2013年にJUMPトレジャー新人漫画賞で佳作を受賞した作品だ。

 舞台は大正〜明治時代で、物語は人を襲う鬼(吸血鬼)と“狩猟者”である主人公の戦いを描いたもの。「ハンデがあっても強い剣士」や「着物を着た吸血鬼(大正〜明治時代の和風のドラキュラ)」をテーマに生み出されたこの作品で、この頃すでに『鬼滅の刃』の世界観が確立されていたことが分かる。

 主人公は腕に「ウー拾壱号」という文字を刻み、「惡鬼滅殺」と書かれた刀を帯びる片腕・義足・盲目の寡黙な若者。表情一つ変えないその佇まいからは、冨岡義勇っぽい印象を受ける読者も多いのではないか。

 物語の中では、喰われる民間人、吸血鬼の縄張り関係と策略、海外から来た吸血鬼との同族争い、そこに乱入する主人公の戦いと彼の過去が交互に描かれていく。吾峠氏は、同作が収録されている『吾峠呼世晴短編集』のあとがきで、「担当さんについていただく前で、第三者からのアドバイス等もなく描いているので、何度か読み返さなければわからなかったりする」と語っているが、短いページ数に詰め込まれた情報量に圧倒される読切だ。

 『鬼滅の刃』との違いは、この主人公がほぼ喋らず、登場も後半で、どちらかというと吸血鬼側を軸に物語が展開していくところだ。さらに吸血鬼よりも鬼狩りのほうが強く描かれており、吸血鬼はタイトル『過狩り狩り』のように「狩りすぎれば狩られる」と身を潜めて生きている。

 最後に注目したいのが、その吸血鬼たちのキャラだ。なんと、珠世と愈史郎が名前も外見もそのまま登場しているのである。関係性も似ている上に、愈史郎に至ってはこのときから紙眼のような能力を使う。さらに、珠世らに協力を持ちかける時川という高圧的な吸血鬼は、鬼舞辻無惨のモデルになっている。

 また、主人公は鬼の住む山に7日間籠るという最終選別を経て狩猟者になっているが、この選別の設定も『鬼滅』に引き継がれており、応募作ながらいくつもの共通点がある作品なのだ。

■ほぼ設定が出来上がったプロトタイプ『鬼殺の流』

 『過狩り狩り』の受賞後、吾峠氏は『文殊史郎兄弟』で商業誌デビューを果たすも、なかなか連載には至らず。ファンブック『鬼殺隊見聞録』でのインタビューによると、編集担当の片山達彦氏は、何とか連載に漕ぎつけるべく思考を巡らせ、「原点回帰」のアドバイスを送ったそうだ。

 吾峠氏はそれをうけて『過狩り狩り』に肉付けしたネーム『鬼殺の流』(3話分)を描き、キャラの深堀や鬼との戦いを詳細にした本作で『鬼滅の刃』のベースを作り上げた。

 本作の時代は明治で、主人公は変わらず片腕・義足・盲目というハンデを背負った若者。年齢は15〜6歳で名を流といい、政府非公認の鬼狩り組織「鬼殺隊」でずば抜けた強さを誇る精鋭だ。

 前作の主人公はほぼ無言だったが、本作の流は寡黙ではあるものの感情を出す場面もあって人間味が増している。さらに、孤児になったところを“育手”の伴田左近次に拾われ、鬼殺隊に入ったという経緯も描かれた。この伴田左近次は、仮面こそつけていないが鱗滝左近次の原型だと推測される。

 また、前作同様に鬼よりも流のほうが強く、堕姫を彷彿させる女の鬼との戦闘中には「ヒュウウウ」という擬音とともに“呼吸”も描かれる。技はないものの、呼吸を変えることで攻撃力とスピードが格段に上がるという設定は完成していたのだ。

 首だけになった鬼は「自分は死ぬのか……?」といった『鬼滅の刃』における鬼の死に様と似たモノローグを残す。悲しい過去を持つ人々もしかり、吾峠氏のセリフ回しがすでに完成されていた印象を受ける。片山氏もインタビューで吾峠氏のセリフ力に一番才能を感じたと語っているが、独特の作風がこのときからすでに確立されているのには驚いてしまう。

 さらに他にも、稀血、藤襲山、藤の花の家紋の家、日輪刀といったおなじみの言葉が登場する『鬼殺の流』。だが、ハンデを負った寡黙な主人公が鬼と戦うという重い世界観が少年誌に合わないとされ、残念ながら連載には至らなかった。確かに少年誌らしくはないが、ハンデを背負った少年が圧倒的な強さを見せつけるという設定もアリな気もする。

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