■斬新なゲームシステムの先にあるもの
通常よりも疲労を感じることで、スタミナが追いつかず滑る……滑る。「これは登れない……」と気づき、結局安全なルートを探ることになります。
この時の体験は、非常にリアルでした。
コントローラー越しに感じる足場の不安定さ、サムの息遣い、バランスの揺らぎ……。私が実際に歩いているわけではないのに、雪山で踏ん張る感覚を味わいました。自らがマップを探索しているようなリアリティ。それらがサムとの一体感を生み出し、プレイヤーを深くこの世界へと引き込むのです。
また、本作が革新的だったもうひとつのポイントは、「オンラインマルチプレイ」の新しい形を提示したことにあります。
このゲームは、オンラインプレイであっても、他のプレイヤーと直接出会うことはありません。
それでも、見知らぬ誰かが設置した橋や梯子が自分の旅を助けてくれる。残された足跡や「いいね」システムが、確かに誰かがそこにいたことを感じさせ、無言の連帯感を生み出します。
誰にも会わないのに、誰かの存在を感じる――。この「間接的な繋がり」が、コロナ禍を過ごした私たちにとって特別な意味を持ったことも忘れられません。
発売当初は、そんな独創的なゲームデザインに多くの注目が集まりました。ですが、小島監督は、自らを「体の70%は映画でできている」と表現するほど、映画的教養が深い方です。
そのこだわりは『デススト』でも存分に発揮されています。カメラワーク、カット割り、ライティング、音楽、静と動の緩急などから、単なる演出の枠を超えた映画的体験を味わうことができ、作品の重厚感をより一層、際立たせています。
そして、本編で描かれた物語からも、小島監督の哲学を感じざるを得ません。
『デススト』という作品は、アメリカの崩壊と分断を描いています。そして、まさにそれは現実の世界で人類が直面している危機を示しています。
小島監督はSNSやインタビューで、政治的・社会的な主張をすることはほとんどありません。しかし、ゲームというメディアを通じて、我々プレイヤーに呼びかけ続けているんです。