■凶悪過ぎる才能が生んだツェリードニヒ=ホイコーロの「刹那の10秒」

 最後はツェリードニヒ=ホイコーロの「刹那の10秒」だ。ツェリードニヒは性格と思想は最悪な人間だが、念能力者としては天才的な素質を持っている。念を修得して間もなく「刹那の10秒」という能力を発現させ、その使い方を把握し始めているのだ。 

 この能力は「未来を一瞬で視る」という驚異的な力だ。目を閉じて「絶」をすると、ツェリードニヒの脳裏には、次の10秒間の出来事が一瞬で「予知夢(ビジョン)」として映し出される。

 この未来視を「刹那の10秒」と彼は名付けた。さらに10秒経った後も「絶」を続けると、この能力はよりいっそう強力な能力となる。 

 「絶」の継続中、ツェリードニヒの脳内では未来視が進み続ける。11秒後、12秒後……と「予知夢(ビジョン)」が進み続ける一方、現実では彼が予知した通りの出来事がリアルタイムで展開していく。そして、目を開けると、その時点からツェリードニヒは未来視でみた世界を追体験する。

 驚いたことに、目を開けた後の10秒間、ツェリードニヒは自分の行動を変えれば未来を変えられるのだ。こう説明するだけではイメージがつきづらいので、以下では作中での実際の描写を通してこの能力の凄まじさを紹介しよう。 

 ツェリードニヒは私設兵・テータとの修行中、「絶」を発動すると「予知夢(ビジョン)」が見えることに気付く。それからしばらく未来視を続けると、テータが無防備な自分の頭を撃ち抜き暗殺するシーンが浮かんだ。目を開けるとまだ10秒前の世界で、未来視の通りにテータは銃を構え、ツェリードニヒを撃った。

 未来を知っていた彼はもちろん銃撃を避けたが、テータはそれを認識できていなかった。そしてツェリードニヒが目を開けて10秒後、未来は彼の行動に伴って改変され、テータはようやくツェリードニヒを殺せなかったと認識する。つまり、彼は「刹那の10秒」で、自分が死ぬ未来すら変えたのだ。

 まだ習得したばかりということもあり、ツェリードニヒ自身も能力の条件やリスクを完全には理解していない。今後、この能力をどう使いこなしていくのかが、王位継承編において重要なカギになりそうだ。

 

 『HUNTER×HUNTER』には多彩な念能力が登場するが、時にルールが複雑すぎてさっと読んだだけでは理解できないケースもある。もちろんすべてを理解するのは難しいし、その必要もないだろう。しかし、基本的なルールだけでもあらためて整理してみると、本作のバトル描写をよりいっそう楽しめるかもしれない。

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