
ゴールデンウィークの定番となっている劇場版『名探偵コナン』。連休中、現在公開中の最新作『名探偵コナン 隻眼の残像』を家族や友人と一緒に観に行くという人も多いのではないだろうか。
これまで圧巻のアクションシーンや名キャラクターの活躍など、さまざまな魅力で多くの観客を惹きつけてきた劇場版『名探偵コナン』だが、特に初期の作品の中には、ミステリー小説顔負けの本格謎解きが楽しめる作品も多い。今回はその中から、コナンファンの筆者が特にオススメしたい「本格派」の3作品をネタバレなしで紹介していこう。
■蘭の記憶の中の犯人に迫る『瞳の中の暗殺者』
まずは、2000年に公開された劇場版第4弾『瞳の中の暗殺者』だ。この作品では、警察官連続殺人事件と毛利蘭の記憶喪失という2つのテーマが描かれている。劇場版第3弾までは大規模なスペクタクルアクションが描かれていたが、第4弾となる本作では本格ミステリーが静かなタッチで描かれた。
真実は蘭の記憶の中にあり、蘭の身を守りながら工藤新一と蘭の思い出の地「トロピカルランド」での犯人との追跡劇に繋がっていく。
ストーリーは、刑事が射殺される現場を少年探偵団が目撃するところから始まる。そして犯行が続けられる中、蘭は偶然犯人を目撃するが、精神的なショックを受けたことで一時的に記憶をなくしてしまう。
事件の犯人はおろか、江戸川コナンや新一、自分自身の記憶まで失っているという衝撃的な状況。さらに蘭に目撃されている犯人は、彼女を狙い始める。
本作ではもちろん、コナンのアクションシーンもふんだんに描かれている。しかし、それと同時に描かれる記憶喪失の蘭とコナンの関係性が最大の見どころといえるだろう。新一の存在すらも忘れてしまっているというのが切なすぎる。
本格ミステリーとしても見ごたえ十分で、連続殺人事件は、過去のある事件と密接なつながりを見せる。警察上層部が関わる不正疑惑や犯罪被害者遺族の苦しみなども描かれる、骨太な作品だ。物語の始まりの地ともいえるトロピカルランドで事件が解決するのも、コナンファンとしては感慨深い作品となっている。
■江戸川乱歩賞受賞作家が描く最高密度のミステリー『ベイカー街の亡霊』
2002年に公開された劇場版第6弾『ベイカー街の亡霊』は、ファンの間でも屈指の人気を誇る1作だ。「シャーロック・ホームズの世界」を舞台にした異色の作風、近未来のテクノロジー、犯人が最初に分かっているという「倒叙」を使ったミステリーなど、見どころとなる要素がふんだんに盛り込まれている。
ストーリーは驚異的な頭脳を持つ天才少年ヒロキ・サワダが自ら命を絶つことから始まる。彼が作った人工知能プログラム「ノアズ・アーク」はヒロキの遺志を受け継ぎ、ある体感シミュレーション・ゲームを乗っ取る。それが「コクーン」であり、仮想現実でゲームを楽しめる画期的なシステムが特徴だった。
そのコクーンの発表会の直前、開発責任者の樫村という男性が殺害された。さらにノアズ・アークによって、ゲームをプレイしていた少年少女50人がゲーム内に閉じ込められ、全員がゲームオーバーになれば子どもたちの頭が破壊されることになってしまう。こうしてコナンは、現実世界で起こった樫村殺害事件とゲームクリアという2つの難題に挑む。
本作の脚本を担当しているのは、ミステリー作家・野沢尚さんだ。『破線のマリス』で第43回江戸川乱歩賞を受賞している野沢さんは、アニメの脚本を担当するのは本作が初めて。仮想世界と現実世界で2つの事件が同時進行していくという複雑なミステリーは、彼の手腕があってこそのものだろう。
映画ならではの壮大なスケールと、大人でも楽しめるように緻密に構成された謎解きが魅力の本作は、劇場版『名探偵コナン』を語る上では欠かせない作品となった。