■永遠に終わらない苦しみに絶望する『懲役30日』

 絶望に打ちのめされる最恐エピソードとして、1998年『秋の特別編』で放送された『懲役30日』も振り返りたい。悪人が恐怖のどん底に叩き落されるという、これまでの2作品とは少し色の違う名作だ。

 死刑制度が廃止された世界で、三上博史さん演じる凶悪犯が捕まった。7人殺害の重犯罪者にも関わらず下された判決は「懲役30日」と軽く、男は歓喜しながら収監されていく。

 午後4時、男は医師から注射を打たれて意識を失う。目を覚ますと、看守長(松重豊さん)から独房に連行される途中だった。男はすぐに出られると余裕をかますが、翌日から炎天下の屋上で日没まで立たされ酷い拷問を受けることになる。

 普通なら死にそうな拷問にも、男は「30日」を心の支えに踏ん張り続けた。そして29日目。男が連れていかれたのは、電気椅子の置かれた地下室だった。死刑は禁止なはずと訴える男に、看守長は「懲役30日というのは死刑のことなんだよ。常識で考えてみろよ、7人も殺しておいてどうして30日の懲役ですむんだ」と冷たく言い放ち、刑は執行された。

 だが、男は生きていた。目を覚ますとそこは注射を打たれたベッドの上で、時計の針は午後4時5分を示している。安堵する男に、医師は「君はこの装置で仮想の現実を体験したんだよ。君には後29日と23時間55分の懲役が残っている」と衝撃の真実を告げた。

 男が経験した30日間は、現実での5分。彼が入所してから実はまだ5分しか経過していなかったのだ。死刑こそ廃止された世界だが、これから5分ごどに注射を打たれ続け仮想現実の拷問を味わい続ける、つまり本当の刑期は720年なのである。突如明かされる先の見えない地獄にイヤな汗をかいてしまう、ゾクゾクする名作エピソードだ。

■理不尽すぎるけど風刺も効いてる『お前が悪い!』

 最後は、主人公に同情してしまう胸糞展開が描かれた『お前が悪い!』を紹介したい。同エピソードは、火浦功さんの同名短編小説の実写化で、1992年に放送されている。

 あるとき、柳沢良一(石橋保さん)は出勤中に交通事故を目撃した。事故を横目にタバコに火をつけると、突然当事者たちが「お前のせいだ!」と言いがかりをつけてくる。

 それ以来、なぜか会う人全てに「お前のせい」と難癖をつけられるようになってしまう。向けられる敵意は理不尽さを増し、しまいには自殺しようとする女学生を助けようとしてあなたが悪いと目の前で飛び降りられてしまった。

 この時点でなんともイヤな気分になるエピソードだが、家に戻ると大勢の人が待ち構えており、ここでも「水がまずいのはお前のせい」「息子が女の子になったのはお前のせい」と文句を言われる始末。

 キレた柳沢は、「何もかもが僕のせいだって言うのかよ!」と叫ぶ。だが、警察が「そういうことだ」と答えると、精神的に追い詰められ悲しい最期を選ぶ。そして人々は、騒ぎを聞いて出てきた隣の住民を「お前が悪い」と次のターゲットにするのだった。

 エピローグではタモリさんの「我々は自分の知らないところで他人に責任を押し付けて生きています」というセリフがあるが、近年問題視されるSNSの誹謗中傷にも通じる部分があるかもしれない。なお原作はブラックユーモア全開のSF作品。気になる人はチェックしてみてほしい。

 改めて振り返っても、「自分が主人公の立場だったら……」と考えると心臓が縮まる絶望展開のオンパレードだ。特に90年代は、後味の悪いエピソードが多かったように思う。近年は年2回と放送機会も減ったが、またゾクゾクするようなエピソードに出会えることに期待したい。

  1. 1
  2. 2
  3. 3