■憎しみで繋ぎとめられた義姉『3月のライオン』有村架純

 羽海野チカさん原作の人気漫画『3月のライオン』は、2017年に前後編で実写映画化された。本作で神木隆之介さん演じる主人公・桐山零の義姉・幸田香子を演じたのが有村架純さんだ。彼女にとって初の“悪女役”であり、同年NHK連続テレビ小説ひよっこ』で純朴なヒロインを演じていただけに、多くの人がそのギャップに驚かされることになった。

 家族を亡くし、将棋の内弟子として幸田家に引き取られることになった零。香子はそんな義理の弟に強い対抗心を抱く姉だ。

 幼いころは将棋で負けると零に手を上げるほど気性が荒く、やがて零に勝てなくなったことで将棋を辞め、次第に荒んでいく。そして、プロ棋士・後藤正宗(伊藤英明さん)と不倫関係に陥り、幸田家を出て一人暮らしを始めた零のところに押しかけては辛辣な言葉を浴びせるなど、主人公・零の心をかき乱し続ける存在だった。

 なかでも印象的だったのが、初詣のシーン。不倫関係にもかかわらず堂々と後藤と初詣に訪れた香子は、そこで零と鉢合わせてしまう。二人の関係を断ち切らせようと詰め寄る零に対して後藤は激昂し、拳を振るう。

 周囲の参拝客が騒然とするなか、心配そうに零へ駆け寄る川本家の面々。川本家は現在零が親しくしてもらっている家族だ。その光景を見た香子は、零に向かって「また他人の家族を食い物にするんだ。得意だもんね! 不幸ぶって人んちに踏み込んで家族を滅茶苦茶に壊すのが!」と、容赦のない言葉を浴びせる。感情的な表情と残酷なセリフ、有村さんの“悪女”の演技に多くの者が息をのんだことだろう。

 感情の起伏が激しくも、どこか脆さを秘めた香子。有村さんの女優としての新たな一面を刻んだ、衝撃の役柄だった。

 

 清純派女優たちが実写化作品で見せた驚異の変貌。浜辺美波さんは『賭ケグルイ』で危うさをはらんだヒロインを怪演し、永野芽郁さんは『マイ・ブロークン・マリコ』で親友への切実な想いを体現。そして有村架純さんは『3月のライオン』で嫉妬と孤独を抱えた義姉を演じ、その圧倒的な存在感を示した。

 可憐なイメージを覆す挑戦的な役柄に、彼女たちの女優としての真価を見た気がする。

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