
透明感にあふれ、純粋で清楚なイメージの「清純派女優」たち。そんな彼女たちがこれまでとはまったく異なる役に挑んだとき、そのギャップが観る者に強烈な衝撃を与える。
可憐なヒロインから一転、危うさや怒り、冷徹さをにじませた演技は、女優としての新たな可能性を感じさせる瞬間だ。そこで実写化作品において、そんな驚きの変貌を遂げた女優たちの名演技に迫ってみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■ギャンブルハマったヒロインを怪演『賭ケグルイ』浜辺美波
浜辺美波さんも清純なイメージの強い女優だ。
ドラマ『咲ーSakiー』(2016年)や、映画『君の膵臓をたべたい』(2017年)など、デビューから王道のヒロインを多く演じてきた。そんな彼女が一転、危うさ満点の驚愕の演技を披露したのが、原作:河本ほむらさん、作画:尚村透さん原作の実写化作品『賭ケグルイ』である。
本作の舞台は、ギャンブルの強さが生徒の階級を決める私立百花王学園。浜辺さんは、異常なまでに賭け事に快感を覚えるギャンブル中毒者・蛇喰夢子を演じた。
2018年に放送されたテレビドラマ版、第1話でさっそく、森川葵演じる早乙女芽亜里と、オリジナルギャンブルの「投票じゃんけん」に興じる。
芽亜里が取り巻きを使ってイカサマを仕掛けるなか、夢子は1000万円を賭ける大博打に出る。すると夢子は一気に豹変。恍惚とした表情でまくし立て、ギャンブルに酔いしれる異様さをあらわにする。そんな浜辺さんの怪演に、当時制作に携わった監督やスタッフたちも“生涯忘れられない瞬間だった”と語るほど、度肝を抜かれたのだという。
その後も、次々と極限のギャンブルを繰り返す夢子。それまで透明感あふれる清純派女優だった浜辺さんが、一転、まさに“賭ケグルった”芝居で観る者を魅了し続けた。本作は、まさに“女優・浜辺美波”の才能を感じさせる作品となった。
■親友への切実な愛『マイ・ブロークン・マリコ』永野芽郁
平庫ワカさん原作の実写映画『マイ・ブロークン・マリコ』(2022年)で、永野芽郁さんはブラック企業に勤める26歳のOL・シイノトモヨを演じた。
永野さんと言えば『俺物語!!』(2015年)や『ひるなかの流星』(2017年)などで純粋で可憐なヒロインを演じる一方、『ピーチガール』(2017年)や『ミックス。』(2017年)では、ヒロインのライバル役や憎まれ役を務めたこともある。しかし、いずれの作品でも可愛さを武器にするキャラが多く、本作で実年齢より上のやさぐれOLを演じることは、彼女にとって大きな挑戦だったに違いない。
物語は、トモヨの親友・イカガワマリコの突然の飛び降り自殺という衝撃的な出来事から始まる。マリコは幼少期から父親による虐待を受け、心に深い傷を抱えていたのだった。彼女の遺骨は虐待をしていた父親の元へ送られてしまう。そのことを知ったシイノは、「せめて遺骨だけでも救い出したい」と決意するのだ。
マリコの家に押し入り、父親ともみ合いながら包丁を突きつけ、「差し違えたってマリコの遺骨は私が連れて行く!」と泣き叫ぶシーンは、永野さんの体当たりの演技が光る。さらに、遺骨を抱えてアパートの窓から飛び降り、隣の川へ飛び込み、必死にかき分けながら逃走。親友の遺骨を守り抜こうとするその姿は、これまでの永野さんのイメージを一変させる壮絶なものだった。
永野さん自身ものちに「初めて、これが“違う人になる”。“なりきる”じゃなくて“なる”ってことなんだというのを体感した」と本作を振り返っていた。『マイ・ブロークン・マリコ』は“可愛い”だけでは収まらない、永野さんの女優としての新たな一面が刻まれる一作となった。