■入り乱れる恋愛模様から目が離せないストーリー
なるみと掛居の恋を軸に展開する『あすなろ白書』。あすなろ会のメンバーが織りなす恋愛模様はシリアスで、それぞれの想いが複雑に絡み合っていく。
なるみは、掛居からふいにされたキスをきっかけに彼に好意を持ち始める。だが、掛居には高校時代からの恋人・砂田トキエ(黒沢あすかさん)がいた。取手は、傷心のなるみに告白するが振られてしまう。断られても笑顔でなるみの恋路を応援する取手はいじらしく、当時、掛居と取手で人気が二分化したのも頷ける。
その後、掛居はなるみと結ばれた。彼を引き止めるために危険な行動に出ることもあったトキエだが、ヤンデレ気味な彼女が見せる激しい愛もまた魅力的で、個人的には幸せになってほしいキャラだった。
一方のなるみと掛居は、価値観と恋愛観の違いから様々な問題が生じ始める。そして、掛居が経済的理由で退学し、ストレスから浮気に走ってしまう。なるみは掛居の浮気を許すも不安から束縛をするようになり、耐えられなくなった掛居は別れを選択する――。
同作の特徴に、掛居がやたらとモテるという点がある。
次第に明かされるのだが、星香は予備校時代から掛居に片思いしており、同性である松岡も掛居が好きなのだ。彼らの想いが変化をもたらすクリスマス前。松岡はなるみから託された掛居宛の手紙を隠し、掛居に愛を告白する。
松岡は、控えめな性格ながら印象強い。西島さんはよしながふみさんの漫画を原作としたドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)でも、同性愛者の主人公・筧史朗を見事に演じているが、独特の透明感と繊細さは当時から変わらない。「シロさん」のファンも必見の役と言えるだろう。
ただ、松岡は掛居に振られてしまう。そして自暴自棄に陥る彼を救ったのは星香だった。いつの間にか掛居よりも松岡に惹かれていた彼女は松岡を慰めながら一夜をともにし、なるみもずっと想い続けてくれた取手と結ばれる。
しかし、そんな矢先になんと松岡が事故に遭って死去。物語はクライマックスへ突き進んでいく。
取手はなるみと別れ、青年海外協力隊としてケニアへ。星香は松岡の子を身ごもって里帰りし、掛居は京都大学に通うために京都へ向かう。そしてなるみと掛居は、数年の時を経て再会。環境は変われど想い合っていた2人は、結ばれるのだった。
■『あすなろ白書』が生み出したムーブメント
物語の面白さはさることながら、『あすなろ白書』は話題を生み出す作品でもあった。最も記憶に残るのは、木村さん演じる取手治による「あすなろ抱き」だろう。登場したのは2話。掛居への想いを断ち切れないなるみが、カラオケで飲みすぎた場面での出来事だった。
取手は彼女を介抱し、酔い冷ましに夜の公園に立ち寄る。甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる取手に対し、なるみは「取手君といると全然緊張しない! なんだって言えちゃう」と笑顔を見せる。
すると取手は、「掛居が好きか」と踏み込んだ質問を投げかける。そして「好きだけど彼女がいるから諦める」と泣くなるみを突然後ろから抱きしめると、耳元で「俺じゃだめか? なあ、俺じゃだめなのか? 好きだ」と想いをぶつけるのだ。
これまで、なるみに小さなアプローチを繰り返してきた取手が見せた男らしい行動に、当時は多くの女性が胸キュン。後に掛居もバックハグをするものの、取手のあすなろ抱きの衝撃はそれに勝る。「私もされたい」と言う声があちらこちらから上がったであろう、キムタクがこれを機にブレイクしたのも納得だ。一途ななるみはそれでも掛居を想っていたが、イケメンにこんなことをされたらほとんどの女性がなびいてしまうのではないだろうか。
三角関係、若者の友情と葛藤と、トレンディドラマらしいテーマがこれでもかと散りばめられていた『あすなろ白書』。登場人物一人一人が魅力的で、彼らの心情に共感できるからこそ視聴者はみな夢中になったのだろう。携帯電話のない時代ならではのもどかしさも、今改めて見てみると懐かしいものである。