■史上最悪の姑…!? 『ずっとあなたが好きだった』
野際さんが姑として強烈なインパクトを残した作品といえばこれだろう。1992年にTBS系で放送された『ずっとあなたが好きだった』である。
本作は賀来千香子さん演じるヒロインの西田美和と、佐野史郎さん演じる桂田冬彦との結婚生活を描いたドラマだ。実は冬彦は極度のマザコンであり、その母親である悦子を演じた野際さんの怪演もすごかった。
悦子は息子・冬彦を溺愛しており、冬彦が美和に対してどれほど理不尽な行動を取ろうとも彼を叱ることはいっさいない。木馬にまたがる冬彦を優しく見つめ、時折冬彦をそっと抱きしめて溺愛する様子は、見る者を戦慄させるほどであった。
『ずっとあなたが好きだった』での野際さんは、まさに“マザコン男の母親”という強烈なイメージを視聴者に植え付けた。実際にはこれほど極端な姑はいないだろうが、“絶対にかかわりたくない姑”として、その圧倒的なインパクトを強く残したのである。
■冬彦さんママからガラリと印象を変えた『私の運命』
『私の運命』は、1994年10月から2クールに渡り放送された長編ドラマである。本作のヒロイン・千秋を演じたのは坂井真紀さん。その夫役である次郎に東幹久さん、そして次郎の母親であり、千秋の姑となる真理子を演じたのが野際さんだ。
本ドラマは千秋と次郎が結婚式を3カ月後に控えるも、次郎が肺がんに侵されるという衝撃的な展開から始まる。これにより穏やかだった千秋と真知子との嫁姑関係も一変。次郎への病状告知をめぐり、千秋と真知子の間に対立が生まれてしまう。さらに余命わずかな息子に対し、母親として何ができるのかが重厚に描かれたシリアスなドラマであった。
本作には医師として佐野史郎さんが登場している。佐野さん&野際さんのコンビといえば先ほど紹介した92年の『ずっとあなたが好きだった』や、93年の『誰にも言えない』に登場するヤバい息子や姑、義母といったイメージがある。
しかし本作で野際さんが演じた義母は、息子のためなら新興宗教の力をも借りてでも何でもしようとする悲劇的な姑としてのインパクトが強かった。死にゆく息子への愛情や悲痛な想いを野際さんは見事に表現しており、見ているこちらまで感じ入るところがあった。
物語後半では次郎が亡くなり、千秋とその息子(孫)、そして真理子の穏やかな生活も少し描かれている。次郎の病をめぐって嫁と激しく対立した真理子であったが、息子が遺してくれた孫とともに幸せな日々を過ごす姿には胸を打たれるものがあった。
野際陽子さんは和服がよく似合い、凛とした美しさと華を兼ね備えた唯一無二の大女優であった。さまざまな役を演じてきた野際さんだが、その一方で姑役としてのイメージも強く、どんな姑役も見事にハマっていたのが印象的だ。
今回紹介した姑役は、コミカルからシリアスなものまで多彩であり、どの役柄も違和感なく感じられたのはやはり野際さんの実力ゆえだといえるだろう。
残念ながら新たな姑役を目にすることはもう叶わなくなってしまったが、これを機会に、これまで野際さんが演じた姑ドラマを振り返ってみるのも面白いかもしれない。