令和の時代は核家族化が進み、両親やその子どもだけで暮らしている家が多い印象だ。しかし90年代はまだ結婚相手の家族と同居するケースも多く、嫁姑のトラブルを描いたドラマも多かった。
そんな90年代「姑の役といえばこの人!」という女優さんがいた。それが、野際陽子さんである。筆者は90年代のドラマをよく見ていたが、登場する姑の多くは野際さんだった印象がある。
今回はそんな野際さんが演じた、90年代ドラマの姑役を振り返りたい。
■鼓ポンポン&のれんピシピシのシーンが人気『ダブル・キッチン』
『ダブル・キッチン』は1993年4月よりTBS系列で放送された嫁姑バトルを描いた作品である。
野際さん演じる姑の真知子は、二世帯住宅で嫁の都(山口智子さん)とバトルを繰り返す日々を送る。息子である忍(高嶋政伸さん)は2人の間に挟まれてオロオロするばかり。このような家族の形は、90年代にとても多かったように思う。
本ドラマはシリアスになりがちな嫁姑の戦いをコメディタッチで描いていた。ゴミ出しや家族旅行をめぐる行き違いなど、同居生活でありがちなトラブルを丁寧にすくい上げた作品でもある。
また真知子はストレスが溜まると鼓を打ちまくり、嫁の都も玉のれんに八つ当たりをするという名物シーンがあった。野際さんが鼓をポンポン叩くシーンVS山口さんがのれんをピシピシするシーンはコミカルで、見ているこちらもなぜかスカッとする演出だった。
また本作での野際さんはただのイヤミな姑ではなく、家族をめぐって奮闘する一人の女性としても描かれていたのが印象的だ。
■90年代にはまだ多かったこのセリフ『長男の嫁』
『長男の嫁』は、1994年4月よりTBS系列木曜夜のドラマで放送された人気作品だ。野際さんは中村家の長男・健一郎(石田純一さん)の母親・節子として登場する。健一郎の妻・美里を演じていたのは浅野ゆう子さんだ。
野際さん演じる節子は、長男夫婦との同居を望んでいる。 しかし奔放にふるまう節子との同居に美里は大反対。嫁と姑が絶妙な掛け合いを見せつつ、なんとか同居を回避しようとする嫁姑バトルを描いた内容だ。
『長男の嫁』に登場する姑・節子は、奔放な性格かつ気丈な性格でもある。90年代はまだギリギリいたであろう、常に凛とした佇まいで着物を着て嫁をたしなめる姿は、その時代の“強い姑”のイメージそのものだった。
また本作では節子が美里に対し、“長男の嫁でしょう!”とたしなめるセリフがたびたび登場する。今ではあまり使われない言葉だが、このセリフにより当時の家族背景がよくわかるドラマでもあった。