空前のアイドルブームに沸き、“アイドル黄金期”とも呼ばれた1980年代。テレビをつければ、連日キュートな女性アイドルとカッコイイ男性アイドルが舞い踊っていた。おもに歌番組やバラエティ番組でその活躍を目にしたが、中にはドラマや映画で活躍する人もおり、「アイドル映画」というジャンルも出来上がっていく。
当時のアイドル映画を振り返ってみると、時代的な背景もあってか、インパクトの強い作品が多いことがわかる。今回は、80年代後半の「男性アイドル映画」に絞って、いくつかの作品を振り返っていこう。
■ロックに生きる少年の友情物語『ロックよ、静かに流れよ』
まずは、1988年公開の『ロックよ、静かに流れよ』。こちらは、ロックを愛するツッパリ少年たちの友情を母親の目線で綴った吉岡紗千子さんによる同名手記を実写化したもので、主演を務めたのは同年にレコードデビューした「男闘呼組」だ。
ロックバンドをコンセプトにした硬派なアイドルである彼らは、もともと1985年に結成しており、デビュー以前から精力的な活動をしていた。ゆえにデビューしてすぐに人気が爆発し、同年には日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞してNHK紅白歌合戦にも出演している。
同作は実話を元にしているため、ぶっ飛んだ設定などはない。むしろ、華やかなアイドル映画とは一線を画す渋い内容で、ロックに青春をぶつける若者の姿が感動を呼ぶ名作だ。
舞台は長野県松本市。両親の離婚でこの街に転校してきた片岡俊介(岡本健一さん)はミネさ(成田昭次さん)と喧嘩になるが、バンド「CRIME」を通じて意気投合。トンダ(高橋一也さん)とトモ(前田耕陽さん)も加わり、4人でつるみ出す。このとき、ミネさのハムスターを見て唐突に喧嘩が終わるのだが、常にハムスターをポケットに直入れしているのはちょっとハラハラする。
CRIMEのライブを見た彼らは自分たちもバンドを組もうと決意し、楽器を買うためにバイトに励む。そしてたまたま目にした論文大会で入選し、賞金の30万円で念願の楽器を手に入れる。
ついに新バンド「ミッドナイト・エンジェル」が始動した矢先、ミネさがバイク事故で命を落としてしまう。悲しみの中で彼らは追悼ライブを開いた。後日ミネさの誕生日に集まった3人は、「ミネさ誕生日おめでとう」とケーキのロウソクを一人ずつ消していく。そして、最後の1本を全員で吹き消すのだった。
最近では「Rockon Social Club」としても活動する男闘呼組のメンバーたち。本作を観れば、映画初主演作ながら高い演技力に驚きを受けるはず。80年代のムードが詰まった、今観ても、エモい気持ちになれることうけあいな作品だ。
■トンデモ設定に驚くファンタジー『CHECKERS in TAN TAN たぬき』
続いては、1983年にデビューし、アイドル的人気で社会現象を起こしたバンド「チェッカーズ」が出演した1985年公開の映画『CHECKERS in TAN TAN たぬき』を振り返りたい。
ヒットソングが流れるMV的な楽しみ方もできる同作は、一言で言うと、斬新なファンタジーコメディ。チェッカーズは実名で登場するものの、彼らはタイトルにもある通り「たぬき」であり、なんと超能力を持っている。知らない人にとっては「ん?」となる設定だが、あらすじを見ていこう。
山奥で暮らす音楽好きな超能力たぬきたちは、ある日彼らを狙う悪の組織に襲われてしまう。逃げた7人は人に化け、「バンド組んで有名になろう」と東京へ向かうのだった。
芝山はじめ(尾藤イサオさん)と出会いチェッカーズとなった7人は、瞬く間にスターに。だが、ナオユキが超能力を使う瞬間を矢尾ディレクター(財津一郎さん)に目撃されてしまう。矢尾は動物の毛を見つけて鑑定に出し、彼らがたぬきだと確信。信じて貰えなかったが世間に告発した。
その頃、悪の組織がチェッカーズの居場所を突き止め、フミヤがさらわれるが、なんとか超能力で仲間に連絡を取り逃げ出すことに成功。これ以上隠せないと覚悟を決めたメンバーはテレビコンサートで、日本中に正体を明かすのだった。
本作は、とにかく「チェッカーズの正体がたぬき」というトンデモ設定につきるだろう。フミヤたちは時折、付け鼻、耳、しっぽを生やした半たぬき姿になりなんともかわいい。個人的には、捕まえたたぬきが日本産で英語を理解できないため、組織の人間が英会話教室をするシーンにクスリとしてしまった。