2021年より2クールが放送され、口コミを中心にたちまち話題となったアニメ『王様ランキング』。原作は十日草輔による漫画で、現在16巻まで刊行されている。現在、前作のアニメで語られなかったエピソードで描く完全新作『王様ランキング 勇気の宝箱』が放送&配信中。『甲鉄城のカバネリ』、『恋は雨上がりのように』、『GREAT PRETENDER』などの話題のアニメを手掛けてきた岡田麻衣子プロデューサーに本作の制作の裏側をお聞きした。
■「ボッジの成長劇にどんどん引き込まれたんです」
『王様ランキング』の物語の主人公は、耳が聞こえず、言葉も話せず、短剣も振れない非力なボッス王国の王子・ボッジ。彼が絶滅した「影の一族」の生き残り・カゲと出会うことから物語は動き出す。先の王が亡くなって、跡継ぎ問題が生まれたボッス王国では様々な内紛が起きるも、ボッジとカゲは多くの人々と出会い、傷つきながらも成長を繰り返し、苦難を乗り越えていく。
今回は本作のほか、アニメ『甲鉄城のカバネリ』、『恋は雨上がりのように』、『GREAT PRETENDER』などを手掛けてきた岡田プロデューサーに話しを聞き、魅力溢れるこの作品の制作の裏側に迫っていきたい。
まず、その心温まる物語と、バトルアクションも含めた高いアニメーション力で話題となった、前作『王様ランキング』の反響を、どのように受け止めているのだろうか。
「普段アニメを観ない方からも『観ました!』と言っていただく機会が多かったことと、本作に参加してくれている中国人のアニメーターが『「王様ランキング」が中国で大人気みたいですよ!』と教えてくれたことがありまして。そのときに海外での反響の大きさに驚きました。この作品は、アニメ好きの方が観てくださる深夜の放送はもちろん、配信で主婦の方や子どもたちにも届きやすくなったのかなと思うんです」
そもそも原作漫画のどんなところに魅力を感じて、アニメ化に動き出したのかも語ってくれた。
「最初に原作の絵を拝見した際は、アニメに向いているのかどうかがわかりませんでした。けれど、実際読み進めると、そんな不安はまったくなくなり、ボッジの成長劇にどんどん引き込まれたんです。ボッジが、カゲという友人とともに大きな一歩を踏み出すストーリーに心を打たれましたし、これは絶対にアニメにして残すべき作品だと思いました」
アニメ好きな大人からすれば、絵本のような質感のタッチは、子ども向けのような印象を抱いてしまうかもしれない。「絵が苦手だから、この作品は観ない」。多くのアニメ好き、マンガ好きが「推し」の作品を他人に薦めようとして、そんな声にぶつかったことは一度や二度ではないだろう。
「確かに、そういう方はどんな作品をアニメにしても一定数いらっしゃいます。でも、この作品は原作からアニメに入る方はもちろん、アニメから原作に戻る方も多くいらして、すごく幸福な形で原作との繋がりを得ることができました」
■「気づいたら、1クール分になっていました」
しかし、この新作アニメ制作の発表には正直驚いた。なぜなら、前作『王様ランキング』の2クールで、既に原作既刊分の内容をほとんど描いているからだ。
「まず、前作のとき、続きを作るつもりで作っていたわけではないんです。ただ、作品作りがとにかく楽しくて、もう少しこの物語を作り続けたいなと思ったんです。前回描き切れなかったエピソードを広げていけば、色んなお話もできるんじゃないかと。新作を数本やれたらいいなと思い、製作委員会の皆さんにアイディアを出させてください、と提案していたんです。そして気がついたら、1クール分になっていました(笑)」
岡田プロデューサーの柔らかい語り口に、思わずこちらも笑顔になる。しかし、こういった形でアニメの続編が作られるケースは特殊。それが実現したのは、作品に関わる作り手たちが、岡田プロデューサー同様の本作への想いを持っていたからに他ならない。その一方で制作は非常に大変だったようだ。
「大変なのは納期ですね(笑)。海外の配信サービスへの納期が厳しくて。とくに、中国で日本とほぼ同じタイミングで配信するためには、配信日の三ヶ月前に完成映像をお渡ししないといけなかったんです。その三ヶ月前納品が大変でした。既存のテレビアニメの制作スケジュールではないため、デスク、制作進行など、私も含めて制作側になかなか実感が湧かないわけです。しかも、アニメは三ケタ規模の人数の人々が関わるので、その皆さんも同様の戸惑いがあったと思います。また、コロナ禍の真っ只中でもありましたから。それでも、その納期を実現できたのはひとえに監督含めて、スタッフの皆さんのお力そのものですね」
後編に続く
〈プロフィール〉
岡田麻衣子 おかだ まいこ
WIT STUDIO所属のプロデューサー。シンエイ動画でプロデューサーとして活躍した後、WIT STUDIOに移籍。数々のアニメーション作品の制作を手掛ける。プロデュース作品に映画『STAND BY MEドラえもん』(14年)、『Hello WeGo!』(19年)、テレビアニメに『恋は雨上がりのように』(18年)、『GREAT PRETENDER』(19年)、『王様ランキング』(21年)など多数。