■春山の「んあ?」を特訓して披露 

 一方、少年ながら『ホットロード』を履修してしまった私は、作品が内包するテーマや問題提起を見逃したまま、ただただ勘違いをしてしまう。春山に対して、内心「こんなやついねーよ」と感じつつも、こういう男がモテるのだと確信し、急にぶっきらぼうで気だるげな雰囲気にキャラ変。なかでも「んあ?」って言いながらだるそうに顔を上げる春山の一連の仕草に可能性を感じ、鏡の前でなんども練習し、男友達の前で入念にリハーサルをしたのち、女子の前で意気揚々と披露したものだ。今にして思えば愚かにもほどがあるが、何しろ「女子受け」という概念を初めて意識したわけだから、まあこの程度のものだろう。また春山と言えば、「お前、俺の女にならない?」や「俺がもらってっちゃうよ」などのパンチの効いたセリフが印象深いが、さすがにこれらは使う機会はなかった。その代わり、猫に向かって「愛してるってゆっといて」と語りかける一人芝居は真似をした。もちろん、私に彼女はいなかった。

 と、ここまでは「野暮な男子中学生が『ホットロード』にハマると痛い目を見る」というテーマで話を進めてきたわけだが、では女子側はどうだったのだろう? 例えば作中に、針先で腕に好きな人の名前を彫るという描写があって、それを真似てイニシャルを彫る女子がいたのは覚えているが、それはウチの地元ならではの現象だったのか、それとも全国的にそうだったのか。男子から見た『ホットロード』論はもちろん、当時の女子から見た『ホットロード』についてのアレコレも、論を待ちたいものだ。

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