■「この世界はオレさまのモノ…」

 見た目は「カンダタ」「エリミネーター」「ごろつき」タイプの姿をして王冠をかぶり、宝玉?のないロトの装備を身に着けているその姿はあまりにも野蛮。主人公の姿を見るなり「ぐひゃははははははは」と笑い出したかと思えば、「この世界はオレさまのモノ…」「オレは王様だぞおおおおお!!!」と叫んで怒り狂う、という勇者とはほど遠いキャラクターは、はっきり言って異常です。

 それもそのはず。

 彼は、カギのかかった謎の建物に閉じ込められていて、その建物の前には「セカイノハンブン」と書かれた看板が置いてあったのです。つまりは、りゅうおうの罠にまんまとハメられて、精神に異常をきたしてしまった、という描写なのです。

 めちゃくちゃ怖いですよね。正直、これをなぜ忘れてしまっていたのか。おそらく、ドラクエでは到底味わえない、芯から震えるような恐怖心に対し、脳が拒否反応を示したのではないかなと思います。それだけ衝撃でした。

 彼がりゅうおうの元までたどり着いていたことを考えると、それまでは勇敢な青年だったのだなと考えさせられるし、そのバックボーンを思えばさらに胸に来るものがありました。

 ちなみに、彼のセリフ内の名前は「****」。プレイヤーがゲームを始めるときに名付けるあの“4文字”のブランクが想起させられますね。細かいところにもこだわりが見られます。

 ほかにも彼については、王様からもらえる旅支度が物足りないと文句を言ったり、兵士が手伝ってくれないことを嘆いていたりしていた、という話も出てくるのですが、これって当時のプレイヤーが思っていたことでもありますよね……。

 なんだか好奇心で「はい」を選んでしまった、そんなことをよぎった人は、この「やみのせんし」のようになってしまうのだ、というあまりにも切ないボスキャラでした。

「やみのせんし」についてネタバレしてしまっていますが、ストーリーに関してはビルダーズのオリジナルストーリーで、今回のこの記事では真相の根幹にはほとんど触れていないので、まだプレイしていない人はぜひ安心してプレイしていただけたらと思います。

■久しぶりにプレイすると意外と忘れている

 こんなキャラクターがいれば、ドラクエ好きなら絶対忘れられないほどのインパクトを残していたはずなのですが、なぜか私は記憶から抜け落ちていました。
発売が2016年1月。そんなに昔の話でもありません。

 当時は、ほかになにか忙しいことや考え事があったのでしょうか。もしくは、先ほどのようにあまりにも恐怖過ぎて脳が記憶を拒否してしまったのでしょうか。

 そして、ドラクエビルダーズは結末もかなり印象的でした。こんな終わり方だったっけ!? ともうほとんど初見プレイのように最後まで楽しめました。

 2022年も残りわずか。

 やり残したゲームもたくさんあるかと思いますが、とりあえずクリアしちゃえ!というような勢いでやったゲームを改めてプレイしなおすと意外な発見があるかもしれません。

 私はもう一生、この「やみのせんし」の存在を忘れることはないでしょう。

 ドラゴンクエスト ビルダーズ。ポケモンのシオンタウンのBGMに並ぶトラウマを植えつけられましたが、とてもいいゲームでした。

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