■敗北にまつわるエトセトラ
「栄冠ナイン」の公式戦は真剣勝負の場。負けが続けば学校の評判が落ち、将来有望な中学生のスカウトがしにくくなったり、グラウンドの土の質が下がって、部員の成長効率に影響することもある。とくに夏の公式試合は、甲子園出場の切符を賭けた負けられない試合が続く。予選で一度でも負けたら、その年の3年生の夏は終わってしまうのだ。
前述した通り、試合中に自力で選手を操作できるわけではないので、どんなにハラハラする緊迫した展開でも、教え子を見守り、多少の指示を出すことしかできない。そのあたりは、まさにリアルの高校野球さながらである。
またこれは実際に経験したことだが、どうしても負けられない一戦に敗れたことにイラ立ち、セーブをせずにゲームをリセットすると場合によっては大変なことになる。全部員の能力や信頼がダウンするだけでなく、学校の評判まで落ちてしまうという強烈なペナルティが発生するのだ……。
それに勝つために監督として全力を注ぐのは言うまでもないが、ときには翌年のチーム事情まで考慮して、能力の劣る下級生に経験を積ませるために試合に出場させることも不可欠になる。
■監督の指示を聞いてくれるとは限らない
試合の要所要所で、監督として選手にサインを送る機会がある。しかし、選手たちが必ずしも監督の狙い通りに遂行してくれるとは限らないのも野球ならでは。
それにスクイズのサインを出したとしても、打者がうまくバットに当てることができず、3塁ランナーをみすみす殺してしまうこともありうる。そんなときは怒りや悔しい気持ちをかみ殺すしかない……。
だがその一方で、打席で「転がせ(転がす打球を打つ)」を指示した選手が、特大ホームランを打ったときなどは、監督のサインを無視したことなどどうでもよくなり、ごきげんな気持ちになってしまうのだからゲンキンなものだ。