■メルエム×コムギ

 キメラアントの王であるメルエムは、ネテロ会長が繰り出した念能力「百式観音」のすべての攻撃をくらってもほぼ無傷だった強者。将棋や囲碁など、人間のプロ化されている盤上競技を数時間で理解し、チャンピオンを次々と打ち倒した文武両道のアリである。

 護衛隊の3名以外は食糧同然とみなすほどの最強のキメラアントだが、軍儀と呼ばれる盤面競技の世界王者・コムギと出会ったことで少しずつ価値観に変化が生じていく。

 盲目の軍儀チャンピオンのコムギは、棋士としてメルエムを圧倒。まったく欲がなく、己の死すら恐れようとしない少女。それでいて他人に迷惑をかけてはいけないと鳥に襲われても声を出さずに耐えようとする、か弱い存在であるコムギとの邂逅が、メルエム自身も理解できない奇妙な感情やいくつかの疑問を生じさせることとなる。

 そんな最強のキメラアント・メルエムも伝染性のある毒に侵され、命が尽きようとしたとき、残された最後の時間はコムギと軍議を打って過ごしたいと伝える。それを聞いたコムギは「とっても幸せです」と返し、お互いに納得するかたちでメルエムが事切れるまで軍儀を続けた。

 そして最初で最後の「ありがとう」という言葉をコムギに残して逝ったメルエム。その亡骸を優しく抱きかかえるコムギの穏やかな表情が印象的で、メルエムの表情は描かれていない。

 同じ冨樫氏の作品『幽遊白書』には、人間から妖怪となった戸愚呂・弟が幻海との別れ際にサングラスを外し、人間らしい優しげな表情を見せて去っていったシーンがある。もしかするとメルエムも、最期は同じような穏やかな表情をしていたのかもしれない。

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