■買ったばかりのソフトが強奪された!
その一方で、『ドラクエIII』をめぐる犯罪も発生している。『ドラクエIII』を買った中学生から、それを強奪するという事件だ。
ここでは東海地方の地方紙・中日新聞の1988年2月11日朝刊から引用したい。見出しは「予約半年、やっと買えた『ドラクエIII』帰り道に奪われる」である。
「10日午後3時45分ごろ、愛知県一宮市緑4丁目の市道で、この日発売されたばかりの人気ソフト『ドラゴンクエストIII』(5,900円相当)を買って自転車で帰宅途中の同市、中学2年生A君(14)は、後ろからそれぞれ自転車に乗ってきた3人組の男に挟まれたうえ、自分の自転車右側に自転車をぶつけられて転倒した。この際、左手に持っていたソフトが路上に転がり、3人組はこれを奪って四方へ逃げた。」(中日新聞朝刊1988年2月11日31面より)
自転車で体当たりをかますという大胆なやり口。A君についての「左手に持っていたソフト」という記述から、ソフトを購入できた彼の喜びが伝わってくる。『ドラクエIII』をバックパックにも入れず、安全など1ミリも考えず家路を急いでいる途中に襲われてしまったのだろう。なんともかわいそうな事件だ。
■「怪物や悪い神と戦うゲーム」
さて、1988年当時はまだファミコンは子どもたちのおもちゃで、「RPG」という単語も世間一般には浸透しきっていなかった時代だ。したがって、新聞記者は読者が疑問に抱くであろう「『ドラクエIII』ってどんなゲームなの?」ということに、的確かつ簡単に答えなければならなかった。
中日新聞の記者は、『ドラクエIII』について、「プレイヤー自身が主人公となり、怪物や悪い神と戦いながら平和を打ち立てるという物語。」(中日新聞夕刊1988年2月10日11面より)と書いている。
「RPG」という単語が大多数の読者には通じないため、代わりに用いたのがこの表現。いやまあ、間違いではないけれど……。もしかしたらこのときの記者自身も、RPGという概念を理解しきれていなかったのかもしれない。「冒険の書」の導入、自由度の高いパーティ編成とシリーズ初の転職システムの採用、夜と朝の時間概念の導入などなど、まったく新しいゲームを体験させてくれた『ドラゴンクエストIII』。国内で380万本を売り上げ、いろいろな問題や事件を生みながら発売されたこのソフトが、RPGの可能性を広げたのは言うまでもないだろう。
昨年5月にシリーズ35周年を記念して行われた生配信番組で、「HD-2D版」のリメイク作品の制作も発表された『ドラゴンクエストIII』。その伝説は、まだまだ続いていきそうだ。