■「ボスは二人もいらない、蛇はひとりでいい」

 核搭載戦車シャゴホッドを破壊し、三度目の世界大戦をもくろむヴォルギン大佐も倒したスネーク。湖に隠された脱出機に着いた彼はEVAと別れ、スネークイーター作戦を完遂するべく、ほとりで待つザ・ボスのもとへ向かう。

 航空機の爆撃が迫る10分間、二人は兵士として戦い、そしてスネークが勝利する。ザ・ボスから“パトリオット”という銃を託されたスネークがその銃口を向けると、最期に彼女は「ボスは二人もいらない、蛇はひとりでいい」と告げた。

 このセリフは、『メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ』でオセロット(の精神をのっとったリキッド・スネーク)が言った、「蛇は1匹でいい! ビッグボスは1人で十分だ!」の引用と思われる。とはいえ、ザ・ボスの言う「蛇」が、ネイキッドと後に続く3人のスネークを指すのなら、前の「二人」と数が合わない。なので蛇は、ザ・ボスとネイキッド・スネークを表していると考えられる。

 ザ・ボスの目的は、“賢者の遺産”という莫大な資金をもとに世界を1つにすること。だが指導者となるボスが「二人」いれば人々は派閥を作り、反目したり分裂したりする可能性が高い。そうならないよう、弟子が十分に育った時点で、ザ・ボスはもともと命を捧げるつもりだったのかもしれない。

「ボスは二人もいらない、蛇はひとりでいい」というセリフの前後に描かれるスネークとザ・ボスの最後の対面は、『MGS3』でも屈指の名シーンだ。10年をともに生きた相手と殺し合わなければならない悲哀、冷戦によって分断された世界、政治や情勢によって弄ばれる軍人の宿命など、ザ・ボスはスネークに自身の思いを伝える。

 すべてを語り終え、最後まで独白を聞いてくれたスネークに感謝するときと、その直後に無線で誰かに指示を出しているときの声は明らかに違っていた。公私を決して違えないザ・ボスの姿は、これから始まる決闘が避けられないことを強く印象づけるものだった。

 また、最後にスネークがザ・ボスを撃つシーンには、大きな仕掛けが仕込まれている。「ボスは二人もいらない、蛇はひとりでいい」という言葉のあと、スネークが銃口を向けるわけだが、ここで俯瞰の視点になり、画面の上下にあった黒い帯が消える。そのまま待っていても、スネークは銃を構えたまま。攻撃ボタンを押し、銃の引き金を引くのはプレイヤーの役目なのだ。

 プレイヤーが、ザ・ボスの過去や思いを知らされた後のこの演出は、巧みであり意地悪にすら感じる。だが、事の重さを伝えるのに、これ以上ない手法であるとも思う。ザ・ボスを撃ったスネークと、彼に引き金を引かせたプレイヤーは一種の“共犯”となるわけで、一連の出来事は思い出というより“トラウマ”として脳裏に焼きつくことになる。

 スネークイーター作戦を成功させた功績から、ネイキッド・スネークはザ・ボスを越える者として、“ビッグボス”という称号を大統領より贈られる。ボスの称号を受け継いだネイキッド・スネークは伝説の英雄となり、この後にもさまざまな功績を打ち立て、裏の世界の人々から神のごとくあがめられていく。

『メタルギア』シリーズの原点が描かれたこと、ネイキッド・スネークとザ・ボスの関係、時代に翻弄されるキャラクター、シリアスとコメディがないまぜになった無線、『MGS3』が最高傑作とうたわれる理由は、挙げていくとキリがない。PS VitaやPS3向けに一度はHD化された本作だが、現行機であるPS4やPS5でもいつかは遊びたいものだ。

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