■グラブを投げてボールに当てたら三塁打?

 最後に紹介するのは、山田たちが2年生の夏の甲子園初戦での東東京代表・ブルートレイン学園戦。

 ブルートレイン学園の4番打者・桜が放った左中間への大きな当たりに、追いつけないと悟った明訓の中堅手・山岡がグラブを投げつけてボールを止めてしまう。ブルトレ学園の選手はすべて当時の国鉄の特急列車にちなんだネーミングになっていて、その名の通りそろって俊足なため、抜ければランニングホームランになってしまうことを危惧してのことだった。これを見ていた左翼手・微笑三太郎は「グローブを投げて当てちゃ三塁打ですよ」とたしなめるが、実際にはバッターランナーは三塁を回ってホームインし、結局はランニングホームランとなってしまう。

 このシーンは、アウトにならずに安全に進塁することができる塁の数についてのルール、いわゆる「安全進塁権」に関わるものだが、それに対する誤解をクローズアップしている。その中に「野手が帽子やマスク、グラブなどを故意に投げてフェアボールに触れさせた場合、3個の安全進塁権が与えられる」という規定があるのだが、同時にこれは「ボールインプレイ」、つまりタイムが掛かっていない状態なので、走者はアウトを賭して本塁に進んでもいいのだ。

 ちなみに、もしグラブがボールに当たらなければスタンドに入っていたと審判が判断すればホームランが宣告され、逆にグラブを投げたがボールには当たらなかった場合はおとがめなしとなる。

 ここまで紹介した以外に、両手投げで投球モーションに入ってもどちらの手で投げるのか分からない、赤城山高校の投手・わびすけこと木下次郎の変則投球フォームは、ルール改正により現在ではボークである、みたいな例もあったりして、そうしたルールすれすれのけれん味とリアリズムとが絶妙なバランスで成立しているのが『ドカベン』の魅力でもある。

 シリーズ完結まで含めれば総計200巻以上にもなる大長編だが、どこから読んでもその面白さは変わらない。いきいきと躍動するキャラクターだけでなく、ルール解説などその緻密な描写に注目して読み直してみるのもよさそうだ。

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