日本中を沸かせた東京オリンピック・パラリンピックは夏の終わりとともに閉幕を迎えたが、野球ファンにとって9月はペナントレースが佳境を迎える季節。ひいきチームの勝敗に一喜一憂している人も多いのではないだろうか。
ところで、長い年月見ているとつい忘れがちになってしまうが、冷静になって考えてみると野球のルールって複雑すぎないだろうか? 一般に球技のルールは細かくなりがちではあるけれど、野球のそれは他の競技とは比較にならないほど。奥さんや恋人などあまり野球に興味のない人と一緒に見ていて「ルールが分からない」と言われるのは野球ファンあるあるのひとつだ。
それでは逆に、なぜ野球ファンはその複雑なルールを理解できているのか? その答えは、幅広い世代に多大な影響を与えてきたひとつの野球漫画にある。
それが、野球漫画の第一人者である水島新司氏の代表作『ドカベン』である。
『週刊少年チャンピオン』で1972年に連載がスタートした『ドカベン』は、他の水島野球漫画のキャラクターも登場する『大甲子園』(1983年~1987年)を経て、1995年以降は『ドカベン プロ野球編』『ドカベン スーパースターズ編』『ドカベン ドリームトーナメント編』とシリーズを重ね、2018年に大団円を迎えた。
非現実的な特訓で魔球や必殺打法などを編み出すような作品とは一線を画し、作戦・戦術や技術的な側面をフィーチャーしたリアル志向の路線を野球漫画に定着させた。とはいえ荒唐無稽な技などの要素がないというわけではなく、むしろたくさんあるのだが、その理由づけはおおむね理論的かつロマンにあふれ魅力的だった。また野球経験者や、ときにはプロですら見逃してしまうような細かなルールについてもしばしば描写されたのも特筆すべき点で、読者は主人公・ドカベンこと山田太郎をはじめとする明訓高校の活躍に心躍らせつつ、いつの間にか野球のルールまで学んでいたのだ。
その代表的な例を、実際の作中シーンを3つ挙げて紹介したい。