■現実より30年以上早かったビデオ判定
そしてこの白新高校との試合では、もうひとつ面白いケースが描かれている。
7回裏、白新の攻撃で不知火が放ったレフト線への痛烈な打球に、明訓の左翼手・微笑三太郎がスライディングキャッチを試みる。キャッチはしたものの地面すれすれで、ダイレクトなのかワンバウンドなのかが非常に微妙なプレー。ところが、それをジャッジすべき線審がなんと熱中症で倒れているという間の悪さ。審判団は協議の末、試合を放送していたテレビ局に依頼し、ビデオ映像を確認してジャッジしようとするが、肝心の場面は三塁手・岩鬼の頭に隠れて見えない……。
結果として、倒れていた線審が戻ってきてアウトを告げるのだが、この一連の流れは、現在プロ野球で行われているビデオ判定を想起させ、現実での導入どころか必要性が論じられるようになった時代からすらも、はるかに先駆けて『ドカベン』で描かれていたということになる。精緻な描写に加えて、野球という競技を知り尽くしているがゆえに発揮されるこうした先見性もまた、『ドカベン』のみならず水島野球漫画の魅力のひとつなのだ。