■ノムさんも首をかしげた「4つめのアウト」
まず最初は、山田たちが2年生の夏、明訓高校が神奈川県予選で白新高校と対戦した試合で起きたプレーだ。白新のエース不知火守に9回までパーフェクトに抑えられていた明訓は、0-0のまま迎えた延長10回表でついに1死満塁のチャンスを作る。
明訓の5番打者、微笑三太郎がスクイズを試みるも小フライになり、不知火がこれをダイビングキャッチ。三塁ランナーの岩鬼正美は帰塁せずそのままホームインしていたが、不知火はランナーの山田が飛び出していた一塁に送球、一塁手はそのままベースを踏みダブルプレーが成立、明訓は無得点でチェンジとなった……かに見えた。
ところがベンチに戻った白新ナインはスコアボードを見て驚愕することになる。明訓に1点が入っていたのだ。結局これが決勝点となり試合はそのまま明訓が勝利する。
あのノムさんこと往年の名選手にして名監督の野村克也氏も水島に「あんな嘘を書いたらアカンで」と言ったという逸話があるぐらいだが、結論から言えばこの描写が正しいのだ。
このシーンについて理解するためには「フォースアウト」と「アピールアウト」の違いを知っておく必要がある。
フォースアウトとは走者に進塁義務があり、守備側は走者にタッチしなくても塁を踏めばアウトにできる。それに対してアピールアウトは、守備側が指摘して初めてアウトになるプレーで、タッチアップが早すぎた場合やベースの踏み忘れなどがその例だ。ここで重要なのは、フォースアウトなら守備側の3アウトが攻撃側のホームインより時系列を無視して優先されるということだ。
つまり、不知火は一塁ランナーの山田をフォースアウトにしたと思っていた。しかしこれは勘違いで、実際にはフライアウトで進塁義務がなかったためフォースアウトではなくアピールアウトで、先にホームインした得点が認められてしまったのだ。これを防ぐには、三塁ランナーの岩鬼をアピールアウトにする必要があった。これはいわば4つめのアウトで、3つめのアウトとして置き換えることができる。
というのがものすごくはしょった説明だが、どうだろう、お分かりいただけただろうか?
これは「ルールブックの盲点の1点」とも呼ばれ、同様のプレーは現実の高校野球やプロ野球でも複数回起きているが、2012年夏の甲子園でのケースでは得点した側の選手が「ドカベンを読んで知っていた」とコメントしている。また、高校野球漫画『ラストイニング』(中原裕)でも描かれたことがあるなど、コアな野球ファンには逆におなじみのプレーだとも言える。