■不運と誤算がもたらした最悪の結末!?

 ただ、あらためて映像を見返した上でヘンケンを擁護するなら、このときガンダムMk-IIを攻撃していた敵モビルスーツはたった1機のみ。エゥーゴが誇る新造戦艦ラーディッシュの火力で弾幕を張れば、1機くらいは撃墜できるという考えに至っても不思議はない。現にヘンケンは即座に「左舷、敵モビルスーツを叩き落とせ」と攻撃命令を下している。

 ヘンケンにとっての不運は、1機のハンブラビに乗っていたのがティターンズ屈指の名パイロットであるヤザン・ゲーブルだったことだろう。巧みな操縦技術でラーディッシュの砲撃を回避した上、艦にとっての急所であるブリッジ付近に的確にビーム・ライフルを直撃させた。あれが並みのパイロットであれば、ここまで最悪の事態にならなかったかもしれない。

 少なくてもセリフや前後の流れをしっかり見れば、ヘンケンが恋人を守りたいという私的な感情を最優先させて、いたずらに艦や味方を巻き添えにしたのではないことは分かる。子どもの頃の短絡的な決めつけを反省したい。

 そしてそれを裏づけるのが、テレビ版よりかなり後の2006年に公開された劇場版『機動戦士ZガンダムIII 星の鼓動は愛』での同シーンの描写だ。テレビ版に新作映像を加えて再構成された同作品では、ラーディッシュがエマの救援に向かうまでのブリッジ内のシーンが新規映像に差し替わっている。

 こちらではエマのガンダムMk-IIがヤザンに攻撃されているところをラーディッシュが捕捉したとき、ヘンケン艦長の命令を待たずにブリッジのクルーが独断でエマ機に向かって艦を前進。他のクルーも機銃でハンブラビを攻撃するなどの指示を出していた。

 こうしたクルーたちの自発的な行動にヘンケンは一瞬何かを考える様子を見せるが、クルーによる「エマ中尉がヤバいんだよ!」の悲痛な叫び声を聞いて、「諸君、すまない」と言いながら艦の加速指示を出す。

 このときヘンケンがクルーの行動に反対しなかった裏側には、当然愛するエマを助けたいという強い気持ちがあったことだろう。しかし、わざわざこのシーンを作り変えたことに製作サイドからの何らかの意志が感じられる。

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