■愛しい相手を守るための行動が物議を醸す

 最後に紹介したいのは『機動戦士Zガンダム』に登場するヘンケン・ベッケナーの行動だ。戦艦ラーディッシュの艦長であるヘンケンは、彼が恋する相手エマ・シーンを守って死んだ。それだけならシンプルに愛に殉じた美談で終わるのだが、問題は彼のその判断により戦艦ラーディッシュが撃沈させられた点にある。

 ヘンケン艦長はエマを助けるためにラーディッシュを前進させてガンダムMk-IIの盾となり、「中尉が無事なら良い、ラーディッシュを盾にしろ」と言った挙げ句、乗組員もろとも艦を撃沈された。個人的には、自分の愛する女性を助けるために多くの味方を犠牲にした酷いヤツだ……などという印象を以前まで持ち続けていた。

 これを周りのガンダム好きに聞くと、案外同じように感じていた人が多い様子。しかし大人になってから、あらためてあのシーンを見返してみるといろいろ考察の余地があることに気づく。

 まず最初にラーディッシュをエマのガンダムMk-IIに近づけようと言ったのはヘンケン艦長ではなく、ブリッジにいたほかのクルーだ。そのときヘンケンは「ダメだ! ラーディッシュは」と一度はその提案を却下。しかし、続けざまに別のクルーが「エマ中尉をこのまま見殺しにはできません」と叫ぶと、ヘンケンは苦悩してからラーディッシュをガンダムMk-IIの近くまで前進させた。

 もちろん最終的な判断を下したのはヘンケン艦長であり、その決定が艦を撃沈に至らしめた事実に変わりはない。実際ヘンケンは前進させる前に「すまない……」とクルーに告げたことから、艦を危険にさらすことは承知していたはずだ。

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