■命を捨てる覚悟をさせた「娘のような存在」

 続いて紹介したいのは、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』に登場したジオン軍のエースパイロット、ノリス・パッカードだ。

 ジオンの秘密基地に対して地球連邦軍の猛攻が続いていたときのこと。多くの負傷兵を載せたザンジバル級機動巡洋艦ケルゲレンは基地からの脱出を間近に控えていた。このケルゲレンが無事に離脱することを誰よりも強く願い、準備を進めていたのが、ジオンの名門サハリン家の娘アイナ・サハリンである。

 サハリン家に大恩のあるノリスは、アイナが小さな頃からずっと見守ってきた人物。アイナが連邦の兵士と恋をしたことで内面が成長したことにも気づいていた。

 ジオン基地の弾薬は尽きかけ、状況は刻一刻と不利になっていく中、前線から帰還したノリスはアイナと再会。その話の中で「親がわりのノリスのこと、何も知らない……」とアイナがつぶやく。

 この言葉を聞いたノリスは「自分がアイナ様の親……!?」と驚きながらもうれしそうな表情を見せ「光栄です」と答える。そして「決心がつきました」と語ると、再度出撃に臨んだ。

 このタイミングで出撃すれば味方との合流はほぼ絶望的だが、ノリスは「人の生は何を成したかで決まる」「アイナ様の望みがケルゲレンの脱出なら、それを助けるのが軍人としての私の役目」と告げ、その決意の固さにアイナも引き留めることはできなかった。愛機グフ・カスタムに向かって歩を進めるノリスの吹っ切れたような表情がなんとも印象的シーンだった。

 こうして単騎で出撃したノリスは、08小隊を始めとする部隊を相手に獅子奮迅の活躍。しかし、くしくもアイナの想い人であるシロー・アマダの乗るガンダムEz8がノリスのグフ・カスタムの前に立ちはだかると、ノリスは「アイナ様、合流できそうにありません。自分は死に場所を見つけました」と叫び、ケルゲレン出航を促す発煙信号をアイナに向けて射出した。

 そしてシローとの壮絶な一騎打ちでノリスはコクピットを真っ二つに切り裂かれながらも「勝ったぞ!」と絶叫。その直前、自らの命を犠牲にしてケルゲレン脱出の妨げになる最後のタンクを撃破しており、アイナの望みをかなえるために散った。

 彼の場合は恋愛や夫婦の情などとは違い、父性愛に近い感情でアイナのために命を捨てたのが印象的。大人になってからあらためて同作品を見直すと、ノリス・パッカードの言動の一つ一つがとても崇高で尊いものに感じる。

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