■イメージがあふれるドラクエのじゅもんたち
ネーミングという観点では「じゅもん」の名前も重要です。
「メラ」「ギラ」はなんだか熱そうですし、「ヒャド」が冷たそうなのはなんとなく分かるとして、私はそれらの魔法の強化系のネーミングがすばらしいと思います。
ゼロから呪文を作るという観点で見たとき、もしも自分が作るなら強化版はすべて「一定の法則」にしたがって作るのが手っ取り早く、プレイヤーにとっても分かりやすいだろうと考えるでしょう。
たとえば、ファイナルファンタジーの「ファイア」「ファイラ」「ファイガ」、「サンダー」「サンダラ」「サンダガ」のようにすると一目で強化版だと分かりやすい上に、語感もよく覚えやすいネーミングになるので、都合が良いです。
しかし、ドラクエはそうではなく、すべてオリジナリティのあるネーミングをつけました。「ギラ」「ベギラマ」「ベギラゴン」という強化版の名前をつけた場合、他の呪文も「メラ」「ベメラマ」「ベメラゴン」にしないと分かりづらいところ、「メラ」「メラミ」「メラゾーマ」という異なる表現でそれぞれの強化呪文を表しました。
この複雑なネーミングは通常混乱を伴い、よく分からなくなってしまいがちなのですが、ドラクエのネーミングはなぜかしっくりくるうえに強化版であることも分かりやすく、そして何より「言いやすい」のです。
この語感の気持ち良さが覚えやすさにもつながっている部分かと思いますが、この感覚的な部分での天才的なアイディアこそが、ドラクエが家庭用RPGとして日本中で大ヒットしたことの根源なのかなとも感じました。誰がプレイしても分かりやすく、複雑ではない、と見せかけて単純ではない仕掛けやアイディアがたくさんつまっているからこそ、老若男女に愛されているのだなと思います。
それは私がドラクエを偏愛しているがためにそう感じてしまっているのかもしれませんし、確かに「ライトシャムシールってなんぞ?」と無知ゆえにネーミングに疑問を感じたことも少なからずありますが、ドラクエの面白さの秘訣は随所に光るこうした繊細なセンスにあるのではと、感じております。