期待に応えつつ意外性も大事にするのが下野紘
――過去の『AD-LIVE』で「この人、こんなことしちゃうの!?」といった、意外性のある方はいらっしゃいましたか。
意外性のある人は山ほどいますね。逆に意外じゃなかったのは杉田(智和)くん。
――杉田さんが意外じゃない、というのが意外ですが……。
「杉田くんっぽいことをやるだろう」と思っていたら、まさに杉田くんっぽいことをやったんです(笑)。期待に応えてくれたな!という感じがすごくありましたね。下野(紘)くんも期待に応えてくれるタイプで、即興ソングを歌ったりしてくれますし、相手の設定に乗るということも、とても丁寧にやってくれる。だけど彼はすごくポジティブで明るい人に見えるけど、持ってくる設定はほとんどダークサイドなんです。
――意外な闇があるんですね(笑)。
相手を殺害するとか、すごい設定を持ってくる(笑)。キャラクターも外見もポジティブな彼だからこそ、それが効いてくるんですよね。彼はそういう意外性をすごく大事にしているなと感じます。
それから今年も出てくれる津田さんは、以前の公演で「冒頭になぜこんな恰好で登場したのか」という謎が徐々に明かされていく……というストーリーを用意して、その通りにお芝居を運んでいき、最後はきっちり冒頭のシーンに戻るという仕掛けをご自分で作られたんですよ。まさにこれは意外性のかたまりであり、同時にめちゃくちゃ正統派な演劇でもある。イレギュラーではなく、自分でコントロールできる範囲で相手を驚かせるというのは、やっぱりすごい人だなぁと思いましたね。
イレギュラーなことが必ず起こるようにしてある
――この『AD-LIVE』というコンテンツがこれだけ長く続いて、多くのファンに愛されている理由は、どんなところだと思われますか。私はやはりライブならではの、その人自身の個性や人柄がにじみ出るところに面白さを感じるのですが。
僕は、舞台とはちょっと違うところが『AD-LIVE』の面白いところだと思っていて。もちろん出演される皆さんは役をしっかり作ってきて、役のまま最後までやりきることを目標に、真剣にやってくれるんですよ。舞台として向き合ってやってくれるんですが、そこに“多少のゆらぎ”が出やすい仕組みを作ってあるんです。その舞台のキャラクターや世界観の中に垣間見えるメタがあるというのはすごく大事なポイントで、それが許容される仕組みというのも面白いところ。
メタが見えると醒めてしまうこともありますから、普通の演劇においてはタブーとされていますが、『AD-LIVE』には“アドリブワード(劇中で出演者が引く様々な言葉。言葉は公募され、完全にランダム)”という仕組みで、イレギュラーなことが必ず起こるようにしてあるんです。おそらくアドリブワード無しで90分演じたら、普通の即興劇をきれいに作り上げてくれると思うんです。それだけの技量を持っている方々ですから。でもアドリブワードを入れることで、絶対にイレギュラーバウンドするし、メタが垣間見える。
『AD-LIVE』は、ストーリーに純粋に感動して泣いてくれる人もいれば、「声優さんに何が起きるんだろう!」とメタ要素を期待して観る人もいる。その見方の違い、見え方の違いというのが『AD-LIVE』の面白さで、僕自身も映像チェックなどで何度も見ているのに「前回見たときとは違う印象で見れるな」と感じるくらい。そこが『AD-LIVE』の魅力なんだろうなと思いますね。
【PROFILE】
鈴村健一 すずむら・けんいち
大阪府出身。TVアニメ『マクロス7』モーリー役で声優デビュー。『おそ松さん』イヤミ役、『銀河英雄伝説 Die Neue These』ヤン・ウェンリー役など、多くの人気作に出演。さらにラジオパーソナリティや音楽活動など、幅広い分野で活躍。舞台『AD-LIVE』の総合プロデューサーや、自身が所属する声優事務所インテンションの代表取締役も務めている。
YouTubeチャンネル「鈴村健一の声優のかじり方」では声優志望者に向け動画を配信中。
鈴村健一インタビュー最終回は明日公開予定。お楽しみに!
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